背筋が凍るような米国のレントゲン技師の失敗を紹介しよう。ある医師が時代をさかのぼって患者の胸部X線写真をチェックしたところ、見つかった腫瘍の90%が、前のX線写真にも写っていたという。要するに技師が見落としていたのだ。
 医師にも失敗はある。
<アメリカでは毎年、七000人ほど死亡している――病気でも事故でも天災でもなく、医師の書く文字がぐちゃぐちゃなせいでだ>
 人間は失敗を犯す生き物だ。しかし「間違えました」と謝って済む失敗と済まない失敗がある。
 ハイジャックなどは後者の典型だ。空港の検査が行き届いていれば、そのほとんどは未然に防ぐことができる。しかし、この事実を知れば、利用者は頭を抱えざるを得ない。<二00六年にシカゴのオヘア国際空港で、運輸安全局の潜入調査員が機内手荷物に隠した爆弾の材料および爆発物の六〇%までが見落とされた>
 失敗にはいくつもの原因があるが、最も多いのは「思い込み」によるものである。こうだったはず、こうなるに違いない。固定観念や先入観を今一度、疑ってかかる必要がある。栗原百代訳。 「しまった!「失敗の心理」を科学する」 ( ジョセフ・T・ハリナン著・講談社・1500円)

 2冊目は「田中宏和さん」( 14人の田中宏和著・リーダーズノート・1300円)。田中宏和さんが全国の田中宏和さんを紹介する田中宏和だらけの一冊。コミュニケーションの不在が指摘される昨今、名前を通じてのつながりにホッとする。

 3冊目は「ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか」( 青木高夫著・ディスカヴァー携書・1000円)。日本人は自らルールづくりに参画することが苦手だ。その典型がスポーツである。では、どうすれば日本人はルールセッティングの主役になれるのか。

<1〜3冊目は2010年3月17日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>


「カミカゼ戦法」でW杯に挑め

 4冊目は「トルシエの眼力」( フィリップ・トルシエ著・徳間書店・1200円) 。 2カ月後に迫ったサッカーW杯南アフリカ大会。周知のように日本は1次リーグE組に振り分けられた。同組を構成する残り3カ国はカメルーン、オランダ、デンマーク。FIFAランキングは20位、3位、34位と、いずれも日本の45位を上回る。
 日本代表の岡田武史監督は「目標はベスト4」と言い切るが、現在の実力、チームの仕上がり具合から判断すれば予選リーグ突破も難しい。それが大方の識者の見立てだ。
「カメルーンに負けたら日本のW杯は終わる!」との本著の謳い文句はかなり刺激的だが違和感はない。では、どうすればカメルーンに勝てるのか。
 元日本代表監督である著者は<現状では「カミカゼシステム」を90分間実践することこそ、日本が勝機を見出す唯一最善の方法と言える>と結論付ける。著者の言う「カミカゼシステム」とは「前から激しく走り回って守備に行く」体力と気力の限りを尽くす戦法で、こうでもしなければカメルーンは止められないというわけだ。
 しかし90分間、それをやり通すのは至難の業だ。そこでフォーメーションの変更が必要となる。何か有効な手立てはあるのか。

 5冊目は「心で勝つ 技で勝つ」( 小谷野栄一著・潮出版社・952円)。 著者は好守巧打のパ・リーグを代表する三塁手である。しかし、パニック障害に悩まされ、打席で嘔吐した過去を持つ。いかにして野球人生の危機を乗り越えたのか。

 6冊目は「ホームランアーティストの美学と力学」( 田淵幸一著・ベースボール・マガジン社新書・860円)。  高く舞い上がり、アーチを描いて外野スタンドに吸い込まれる著者の本塁打に酔いしれたファンは少なくあるまい。本塁打のメカニズムを分析する。

<4〜6冊目は2010年4月7日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
◎バックナンバーはこちらから