“ドーハの悲劇”改め、“ドーハの歓喜”である。1月30日未明、日本列島は喜びに沸いた。
 オーストラリアとのアジアカップ決勝。日本はオーストラリアの強さと高さに苦しめられながらも延長後半4分、李忠成の芸術的なボレーシュートが決勝ゴールとなり1対0で宿敵を振り切った。

 ベンチでチャンスを辛抱強く待ち続けた李の精神力、決勝点をアシストした長友佑都の突破力、豊富な運動量についてはどれだけ褒めても褒めたりないが、アルベルト・ザッケローニ監督の采配も光った。
 その白眉は後半11分のDF岩政大樹の投入である。これによりオーストラリアに握られっぱなしだった制空権のかなりの部分を取り戻すことに成功した。

 岩政を投入する直前、ベンチとピッチの間で配置転換をめぐるやり取りがあった。
 当初、ザックは岩政をストッパーに起用することで、DF今野泰幸をアンカーに上げようと考えていた。しかし今野は左足に負傷を抱えており、接触プレーの多いこのポジションでのプレーを嫌った。
 ザックはこの今野の意見を尊重し、左サイドバックに配置を変更、そのポジションを守っていた長友を同サイドの高い位置に上げた。
 これがピシャリと的中した。岩政の投入で最終ラインが安定し、長友を前に置いたことで彼の攻撃力が最大限いかされた。それが決勝ゴールを演出したのである。

 それにしても監督の指示に選手が首を振り、代替案を用意するなんて、この国の代表チームにおいては、それまでなかったことだ。
 選手の成長を示すシーンであると同時にザックの柔軟性、懐の深さには驚かされた。
「(このチームは監督に)やらされているのではなく、一緒に戦っている」とはDFの吉田麻也。ベンチとピッチの一体感と信頼感。ザックジャパンの最大の強みはここだろう。今夏のコパ・アメリカが今から楽しみだ。

<この原稿は2011年2月21日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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