5人が逮捕され、ついには自殺者まで……。韓国のプロサッカーリーグ「Kリーグ」が八百長事件で揺れている。その背景には待遇の問題があると見られている。

 朝鮮日報のキム・ドンソク記者は指摘する。<地方球団は八百長の誘惑に弱いことも明らかになった。年俸は多くても5000万ウォン(約370万円)ほどで、いつ解雇されるか分からず、選手たちは皆将来に不安を感じている。そのため八百長の話が持ち掛けられると、断るのは非常に難しい。1年に数回八百長に加担するだけで、年俸の数倍に達する額を受け取ることができるからだ。選手たちは謝礼を受け取った後も、より大きなもうけを手にするために、自らが出場する試合を対象に違法賭博に参加するケースもあるという。>(同紙日本語版5月26日)

 八百長を仕切るのは、当然のことながら反社会的勢力だ。彼らは違法賭博サイトを運営し、年俸の安い選手を引きずり込む。一度、悪事に手を染めると、そこから抜け出すことは容易ではない。反社会的勢力の命令に従わない場合、脅迫や暴行を受けることもあるらしい。
 では、どんなポジションの選手が狙われるのか。再びキム・ドンソク記者のレポートを引用する。
<専門家によると、基本的にゴールキーパー(GK)やディフェンダー(DF)に話が持ち掛けられることが多いが、時にはフォワード(FW)にも話が来ることがあるという。GKとDFはその気になれば簡単に失点状況をつくり出すことができ、FWは決定的なチャンスであえてミスを犯すことで、自分たちの得点を減らすことができるからだ。あるプロサッカーチームの関係者は「八百長では“ミッドフィルダー(MF)は人気がない”という冗談か本当か分からない話がある」と語る。>

 韓国がプロサッカーなら台湾はプロ野球だ。2009年に発覚した八百長事件では代表クラスの選手までが手を染めていたことが判明した。
 台湾野球に詳しい人物によれば、胴元である暴力団を「黒道」、仲介役の選手を「白手袋」、八百長行為自体は「偽球」「放水」などと呼ばれているという。
 日本人選手も無縁ではない。阪神で活躍した後、台湾に渡って兄弟エレファンツでプレー、09年5月からは同チームの監督を務めていた中込伸が八百長による賭博罪と詐欺罪で起訴されたのは10年2月。懲役1年8月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。
 韓国のプロサッカー同様、台湾のプロ野球でも年俸の低い選手が狙われた。「日本のような最低年俸制度がないため、選手は皆、将来が不安。賭博のプロである暴力団員たちはそこに付け込んでくる。台湾人選手以外では、母国に帰っても仕事のないドミニカ共和国の選手が狙われやすい」と台湾でプレーしたことのある日本人選手は語っていた。

 日本では大相撲の八百長問題が世上をにぎわせた。その大きな原因とされたのが十両力士と幕下力士の“給与格差”だった。
 前者が月給103万円の高給取りであるのに対し、後者は無給。場所ごとの手当ては出るが、それもスズメの涙ほど。星をカネで買ってでも十両に残りたいと考えるのが人情というものだろう。
 翻って近年、日本のプロ野球(NPB)に八百長のウワサは皆無である。「黒い霧事件」を最後に、八百長による永久失格選手は出ていない。その大きな理由が選手の待遇改善である。
 現在、プロ野球選手は支配下登録されれば、440万円の最低年俸が保証されている。1年間、一軍に定着すれば最低1500万円にはね上がる。これが八百長の抑止力になっている。危ない橋を渡るメリットとデメリットのどちらが大きいか。答えは言うまでもない。

<この原稿は2011年6月9日付『電気新聞』に掲載されたものです>

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