巨人論や阪神論は掃いて捨てるほどあるが中日について本格的に論じた著作は珍しい。名古屋を中心とする東海地方では圧倒的な支持を誇る中日だが、全国的に見れば巨人や阪神の敵役といった位置づけだ。
 しかし近年、中日の安定ぶりは目を見張る。落合博満が監督に就任してから、7年間の成績は日本一1回、リーグ優勝3回、Bクラスは1度もない。今季も7月1日時点で最大8ゲームもあった首位との差をひっくり返して優勝を果たした。
 なぜ、かくも中日は強いのか。かつてエースとして鳴らした著者は元ユニホーム組ならではの視点を提示する。打ったら全力で一塁へ走る。野球の原点だが、これを愚直に実行しているのは中日だけだというのである。
 そういえば、元阪神の掛布雅之は「一塁までの全力疾走を怠らなかったら打率2割8分の打者は3割を打てる」と語っていた。それを徹底させた落合の手腕は、もっと評価されていい。にもかかわらず観客動員は芳しくなく、彼が指揮を執って以降、前年より観客動員が増えたのは2006、08年の2度だけである。強さと人気は比例しないのか。中日は新たな課題に直面している。
「中日ドラゴンズ論」 ( 今中慎二著・ベスト新書・743円)

 2冊目は「ツール・ド・ランス」( ビル・ストリックランド著・アメリカン・ブック&シネマ・1800円)。 ツール・ド・フランスで7連覇の偉業を達成したランス・アームストロング。現役復帰した昨年のツールに密着し、彼の素顔を描きだす。安達眞弓訳。

 3冊目は「僧兵=祈りと暴力の力」( 衣川仁著・講談社・1500円)。 日本史に登場する人物や組織の中でも「僧兵」の存在は独特だ。なぜ宗教者の僧侶が武装勢力にならねばならなかったのか。彼らの活動を克明に描くもうひとつの中世史。

<上記3冊は2010年12月8日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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