これまでの野球人生、ほぼ脇役の道を歩んできた。
 もともと野球を始めたのが小学校6年の夏と他の選手より遅かった。きっかけは、それまでやってきた剣道が「竹刀が当たって痛かったから」。消極的な理由だったとはいえ、長身を生かした投球ですぐにチームの主力になった。背番号はエースナンバーの「1」。だが本当のエースは背番号「10」をつけたキャプテンだった。
「小学校、中学校、高校、大学……ずっとエースにはなれなかったんです」
 愛知の強豪、豊田大谷高でも先発はしていたが、位置付けは背番号「10」の2番手投手。大事な場面になると、背番号「1」の主戦投手にマウンドを譲らなくてはならなかった。

 堂上直に打たれた特大アーチ

 だが高3、最後の夏。ヒーローになれるチャンスが訪れる。エースと今村の2枚看板で県予選を勝ち上がった豊田大谷は、決勝へとコマを進めた。甲子園まであと1勝。相手はその年のセンバツを制した愛工大名電だった。この試合、今村は先発を任される。春の王者を抑えれば、一躍、注目を集める舞台だ。だが、今村は序盤から失点し、リードを許す。5回表、さらに1点を追加され、0−4。なおも無死2、3塁のピンチだ。もう1点もやれない状況で迎えたのは堂上直倫。後に中日に入団する好打者は2年生ながら4番に座っていた。

「相手は愛知県で一番いいバッター。前の打席でもヒットを打たれていました。ここで逃げてもおもしろくない」
 今村は真っ向勝負を挑んだ。カウント2ボール1ストライクからの4球目。持てる力すべてを振り絞ってストレートを投げ込んだ。
「カキーン!」
 鋭い打球音とともに、白球は広いナゴヤドームのレフト中段に突き刺さった。試合を決める特大の3ラン。背番号10は主役に躍り出るどころか、完全なる引き立て役に回ってしまった。
「堂上がドラフト指名を受けた際に、高校時代、一番印象に残っているシーンとして、このホームランをあげていたんです。まぁ、プロに行くようなヤツにそこまで言われたら、いい思い出って感じですね(笑)」

 さらに日の当たらない野球人生は続く。進学先の福岡経済大(現日本経済大)でも、今村の前には大きな壁がたちはだかった。2学年上に剛速球をバンバン投げ込む先輩がいたのだ。それが現福岡ソフトバンクの金無英だった。
「でも大学2年の時は球速も出て、それまでで一番いいピッチングができていた。金さんが抜けて、来年こそエースになれると思ったら、今度は台湾から郭(恆孝)というピッチャーが入ってきたんです」
 結局、大学4年間でこれといった実績は残せなかった。高校から大学を経てプロへ――。密かに思い描いていた人生プランは脆くも崩れ去った。

 自分に腹が立ったチームメイトのプロ入り

 だが、大学時代は大きな壁だった先輩の存在が、今村に野球を続ける力を与えた。故障もあって、大学卒業時にドラフト指名を逃した金は、独立リーグの四国・九州アイランドリーグ(当時)でプレーする。西武で新人王も獲得した福岡レッドワーブラーズ・森山良二監督(現東北楽天投手コーチ)の指導により、フォームを矯正した右腕はアイランドリーグで再び光を放つ。主にクローザーとして2勝0敗17セーブ、防御率0.41の好成績。オフにはソフトバンクから6位指名を受け、1年でプロ入りの夢を叶えた。

 独立リーグを経由してプロへ行く。新たな目標を定め、関西独立リーグに入って今季が2年目になる。昨オフのドラフト会議では同リーグから初の指名選手が出た。巨人に育成選手として入団した福泉敬太は神戸9クルーズでチームメイトだった。
「アイツがプロに行って、自分に対して無性に腹が立ったんですよ」
 今村は語気を強めて、そう言った。
「敬太とは練習でもプライベートでも一緒ですごく仲が良かったんで、指名の瞬間は自分のことのようにうれしかったんです。でも日が経つにつれ、アイツは取材も殺到したり、入団会見に行ったりして、すごく輝いている。ここまで(扱いが)違うかと思いましたよ」

 昨日まで同じように投げていた仲間が、とてつもなく遠い世界へ行ってしまったように感じられた。喜びは悔しさに、そして揺るぎない決意に変わった。
「絶対に来年はオレもプロへ行く」
 オフの厳しいトレーニングも、その強い気持ちが自らを突き動かした結果だった。

 リンスカムのようなストレートを

 ここまで1度も主役になれなかった右腕が、ようやくスターへの階段を昇ろうとしている。スポットライトを浴びるには何が必要か。
「もう少しスピードが欲しいですよね。去年よりは投げれていますが、まだ何かハマれば球速は伸びる気がします」
 現在のストレートの球速はMAX148キロ。これは大学時代に記録したものだ。今村を視察に来たスカウトからもスピード不足を指摘する声がある。メジャー挑戦も視野に入れる23歳にとって、サンフランシスコ・ジャイアンツのティム・リンスカムのような伸びのあるストレートを投げることが理想だ。

「体幹は強くなったけど、それがまだ爆発していない感じですね。フォームがまとまった分、結果は出ている反面、おとなしくなった印象も受けます。彼の課題はコントロールだったので、気持ちは分かりますが、小さくまとまらないようにアドバイスしていきたいと
考えています」
 指導する池内監督もこう語る。後期シーズンに入ってからはスカウトへのアピール機会を増やすべく、先発や回をまたいでの登板も目立つ。

「この1カ月が今村にとっての勝負です」
 指揮官が指摘するように、夏の甲子園も終わり、そろそろ各球団のスカウトはドラフト指名選手の絞り込み作業に入る。そこでキラリと光るものを彼らの心に残すことができるのか。
「狙って三振が取れるところをみせたいですね」
 より大きな舞台に上がれるかどうかのオーディションは間もなく佳境を迎える。 

(おわり)
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今村圭佑(いまむら・けいすけ)プロフィール>
 1987年12月2日、愛知県生まれ。豊田大谷高時代は高3夏の県予選で決勝進出。決勝では先発を任されたが、堂上直倫(現中日)擁する愛工大名電に敗れ、甲子園出場を逃す。福岡経済大(現日本経済大)を経て、昨季より関西独立リーグの神戸9クルーズ入り。前期だけで先発で7勝(2敗)をあげ、優勝に貢献する。神戸の活動休止に伴い、今季からは兵庫へ。抑えに転向して前期の成績は16試合0勝2敗5S。MLB、NPBのスカウトから注目を集めている。長身から投げ下ろすMAX148キロの速球とフォークボールが持ち味。右投右打。身長190cm、体重90kg。






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