キュッ、キュッ、キュキュッ……。体育館いっぱいに鳴り響く、バスケットシューズさながらのこの音は、車椅子のタイヤの音だ。選手たちが車椅子をストップさせたり、ターンをさせたりする度に高いキーの音がこだまする。
ガッシャーン! ガツン! ガツン!……。そこに混じって聞こえてくるのは、車椅子と車椅子がぶつかり合う音。その激しさと言ったら、通常のバスケットボールの比ではない。

 7月23、24日、新潟県長岡市で行なわれた「DMSカップ」を取材した。体育館の中に入ると、プレーヤーたちの機敏な動きに目を奪われた。
「何だ!? あの素早い動きは!?」
 世界の舞台を経験してきた選手たちの巧みなチェアワークに、そう思わずにはいられなかった。車椅子を自在に操り、なおかつドリブルをする。フェイントだって、彼らには朝飯前だ。速攻のチャンスには、ゴール目がけて一目散に車椅子を漕いでいく。そのスピード感がたまらない。後ろから追いかけるディフェンダーとの激しいぶつかり合いは、まるでF1のレースを見ているかのような錯覚さえ覚えた。

 試合途中、私は特等席を見つけた。それはスタンドではなく、コート脇だった。フォーメーションを見たいのなら、スタンドから見下ろす方がわかりやすいだろう。だが、この競技の魅力を体感できるのは、コート上にまで降り、床に座っての観戦が一番だ。特に車椅子バスケットを初めて見る方にはオススメだ。選手とほぼ同じ目線であるために、迫力、スピード、テクニック……見るもの全てが臨場感にあふれているのだ。そして、できれば椅子ではなく、直に床に座ることをオススメしたい。なぜなら、車椅子と車椅子がぶつかり合う瞬間の衝撃が床を通して伝わってくるからだ。もちろん、国際大会など大きな大会ではスタンドで見ることが義務付けられるだろう。しかし、国内大会のほとんどはコート上で見ることができる。お試しの価値は十分にアリだ。

 名称ひとつでイメージが変わる!

 私自身、この特等席で一気に車椅子バスケットボールへの見方が変わった。見ているうちに、いつの間にか“障害者スポーツ”や“車椅子”という概念はなくなり、純粋に車椅子バスケットというスポーツに夢中になっていた。
「うわっ!」「おぉ、マジすごいっ!」「うますぎっ!」
 激しい衝突に感嘆の声を上げ、スーパープレーに目を丸くした。通常のバスケットとは違い、ボールとは全く関係のないところで激しい攻防戦が繰り広げられるのも車椅子バスケットボールの特徴の一つだ。持ち点が高く、シュート能力が高い選手を少しでもゴールから遠ざけようと、持ち点の低い選手が懸命に行き先をふさぐのだ。そのために、ボールから遠く離れた場所で、ガッシャーン! キュッキュッ……という音があちらこちらから聞こえてくる。もう、息つく暇などないとはまさにこのことだ。

 そして、私はふと思った。「これは決してバスケットボールの車椅子版ではない!」と。インドアのバレーボールとビーチバレーがそうであるように、ベースボールとソフトボールがそうであるように、バスケットボールと車椅子バスケットボールは似て非なるものだ。車椅子バスケットにはバスケットにはない魅力が詰まっている。どちらが上でどちらが下かということではない。バスケットはバスケットであり、車椅子バスケットは車椅子バスケットなのだ。

 そしてもう一つ。「車椅子」という文字が、どうしても“福祉”や“リハビリ”のイメージを漂わせる。ならば、一層のこと全てカタカナにしてみるというのはどうだろう? 思わず手帳に書いてみた。
「クルマイスバスケットボール」
 そこに“福祉”“リハビリ”というイメージはない。何か新しいスポーツの名称のようだ。実際に「イスバス」と呼んでいる選手もいると聞く。細かいことだが、その方がカッコイイ。日本人が抱く、この競技へのイメージも変わるのではないだろうか。

 いずれにせよ、一人でも多くの人にこの競技の真の魅力を知ってほしい。興奮さめやらぬ帰りの新幹線の中、そんなことを思いながら新潟を後にした。

(斎藤寿子)

※「The Road to LONDON」はNPO法人STANDとの共同企画です。車椅子バスケ男子日本代表の心境が描かれたアスリートストーリー「ロンドンに秘められた復興への思い」とフォトギャラリーはこちらから!

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