「彼は先発タイプ。次代のエース候補として育てたい」
 2月の春季キャンプがスタートして早々、「星野真澄」の文字が新聞紙上をにぎわせた。川口和久投手総合コーチが巨人の次期エースとして彼の名前を挙げたのだ。独立リーグ・BCリーグから育成選手として巨人に入団した星野は1年目の昨季、開幕前に支配下登録されると、貴重な左の中継ぎとして34試合に登板。2年目の今季はさらなる活躍が期待されていた。だが、星野自身は周囲が評価するほど、自分のピッチングに満足はしていなかった。オフには課題だと感じた股関節の強化やスタミナ不足の解消に取り組み、2年目のシーズンこそ結果を出したいと意気込んでいた。しかし、その星野に大きな壁がたちはだかった。今年から採用された低反発の統一球だ。
「ボールがかわってしまったことが誤算でした」
 開幕して約3カ月が経とうとしていたが、星野はまだ統一球にとまどっていた。全12球団で統一されたボールは低反発のため、「投手に有利」と言われていた。実際、ペナントレースではホームランが減少し、ロースコアでの接戦が多くなっている。だが、星野には有利には働かなかったようだ。
「統一球にかわったことで、未だに変化球がしっくりきていなくてストライクが取れないんです。特にフォークボールはすっぽ抜けが多くて苦労していますね」

 聞けば、統一球は皮の部分がサラサラではなく、“ペチャペチャ”しているのだという。そのために指が引っ掛かり過ぎてワンバウンドになってしまう。そこでひっかけないようにしようとすると、今度は逆に抜けてしまう。星野は今季、落ちないフォークボールを何度もスタンドに運ばれた。

 加えて、夏の季節、星野にとって大敵なのは夏バテだ。とはいえ、決して食欲がなくなるわけではない。食事の量も体重もほとんど変わらない。では何が原因なのか。
「それが自分でもわからないんですよ。もともと僕は夏が好きで、プロ入り前は調子が悪くなることもなかったんです。今も体の調子は悪くないと思っていて、夏バテの自覚は全くないんです。でも、結果的に真ん中にいってしまったボールが打たれてしまう。普通ならたとえ甘く入っても打ち取れるのに……。そこまでの球威がないということですよね」

 訪れた2度目のチャンス

 交流戦まっただ中の6月3日、星野は今季初の一軍登録を果たした。しかし、1週間後には抹消され、再びファームへと戻ってきた。一軍では2試合を投げ、無安打ながら自責点2で防御率27.0。1試合目はワンポイントの起用に応え、稲葉篤紀(北海道日本ハム)を空振り三振に仕留めたが、セットアッパーとしてイニングのはじめからマウンドに上がった2試合目は1死後に2者連続四球。引き継いだ越智大祐が次打者に2点タイムリーを打たれてしまった。その3日後、星野は登録を抹消された。たった一度のミス。しかもヒットを打たれたわけではない。自ら与えた2つの四球で星野はチャンスをふいにしたのである。

「調子はそれほど悪くありませんでした。狙ったところに投げられていましたしね。攻めたうえでの四球だったので、それほど気にしていませんでした。でも、結果的に2連続四球はよくないですよね。やっぱりコンスタントに結果を残していかないとダメなんだなと思いました」
 星野は改めてプロの厳しさを思い知らされた。

 その後、ファームに戻ってからの星野はボールのキレを取り戻すための試行錯誤が続いた。統一球への慣れに加え、フォームの変更も余儀なくされた。それまでは右肩の開きを解消するためにクラウチングスタイルにしていたが、ストレートの球威はあるものの、変化球のコントロールが定まらなかったからだ。また、期待の表れでもあるのだろう。リリーフだけでなく、星野には先発の役割も与えられた。その分、責任感は人一倍だった。

「僕は体力には自信があるし、故障もほとんどない。だから調子さえよければ先発でも中継ぎでも、“どんとこい!”という感じなんですけどね……。今は勝手に一人でトンネルに入って、真っ暗闇の中を手探りで出口の光を探している状態ですね」

 これが“2年目のジンクス”なのか……。27歳の自分に遠回りしている余裕はないとわかっている星野は、必死で焦りが生じることを抑えようとしていた。
「何がいいか悪いかは、やってみなければわからない。でも、そこに感情が入るのだけは嫌だなと。感情で動いてしまうと、間違った選択をしかねない。そうすれば、必ず後悔するでしょうから。それだけは避けたいなと思っています」

 今月26日、星野は再び一軍に上がった。ペナントレースもいよいよ大詰めを迎えようとしている中、チームは中日、阪神とともに激しいAクラス争いをしている。そんな大事な時期に首脳陣は再び星野にチャンスを与えたのである。これがどういうことなのか。星野自身が一番わかっているだろう。
「やってやれないことはないと思っています」
 調子の良し悪しではない。結果が全てのプロの世界だ。星野に求められているのはただひとつ。首脳陣からの“信頼”である。果たして星野はどんな結果を残すのか。ペナントレースがいよいよ大詰めを迎える中、育成上がりのサウスポーのピッチングに注目したい。

星野真澄(ほしの・ますみ)プロフィール>
1984年4月4日、埼玉県出身。埼玉栄高、愛知工業大を経て、2007年バイタルネットへ入社。同年、谷元圭介(北海道日本ハム)と左右のエースとしてチームを牽引し、日本選手権出場に大きく貢献した。09年、信濃グランセローズに入団し、チームトップの8勝を挙げる。昨年、育成ドラフト1位で巨人に入団。開幕前に支配下登録され、左の中継ぎとして34試合に登板した。181センチ、72キロ。左投左打

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(斎藤寿子)