野茂英雄が米メジャーリーグで活躍し、中田英寿がセリエA(イタリア・プロサッカーリーグ)で脚光を浴びるようになった頃から、海の向こうでのプレーを夢見るスポーツ選手は飛躍的に増え始めた。
 最近は近い将来の海外移籍をにらみ、早い時期から外国語を習う選手が少なくない。
 南アフリカW杯で日本代表の決勝トーナメント進出に貢献し、現在はベルギーのリールセでプレーするGKの川島永嗣もそのひとり。
 GKは自陣の最後尾から味方に適切な指示を出さなければいけない。外国語が話さなければ仕事にならないのだ。
<現在、僕は、英語とイタリア語であれば、日常生活やチームのミーティング、ピッチレベルの会話で困らないほど使える。オランダ語とフラメッシュ(フラマン語)が簡単な日常会話程度、そして、スペイン語、ポルトガル語を少しだけ話すことができる。

 キーパーにはコーチングという仕事がある。ディフェンスに大声で指示を与えながら、ポジションを修正していくのである。試合中にはシンプルな指示をしかださなくても、練習となれば、味方が何を考えているのか、自分がどうしてほしいかを伝えなければいけない。

 日本ならば「どこの誰につくか」は常識だが、そういう細部までの意識がベルギーでは頭にないので、必然的に指示は細かく丁寧に行わねばならない。それもすべて英語。キーパーというポジションは、言葉が喋れないと、何も改善させることができないのだが、言葉の問題で困惑することはなく、しっかりと通用している。>(自著『準備する力』角川書店)

 とはいえ、プロになった当初から外国語がペラペラだったわけではない。いったい、どのようにして英語とイタリア語をマスターしたのか。

<僕は、性格的には飽き性である。読書にしても10分読むと飽きて、すぐに他の本に手が行ったりする。その性格が幸いしたのか、イタリア語の勉強に飽きた僕は、英語の勉強を同時進行で始めた。
 気分転換のつもりで、イタリア語に飽きると、英語、英語に飽きるとイタリア語といった調子で勉強していたのだが、この勉強法には効能があった。同時に2か国語を学ぶと、文法や単語にも共通点が見えてきて上達が早まったのである。>(同前)

 将来、ヨーロッパでのプレーを希望している選手は“川島式”を参考にすべきかもしれない。

<この原稿は2011年10月18日号『経済界』に掲載された原稿から抜粋したものです>
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