懐かしい名前が名門ロサンゼルス・ドジャースの新オーナー候補に浮上してきた。ピーター・オマリーだ。
 オマリーは1970年、父ウォルターの後を受けてオーナーに就任。それから28年にわたって球団を経営してきたが、97年に「もはや1ファミリーが球団経営をする時代ではない」と言って、ニューズ・コーポレーションの総帥ルパート・マードックに球団を売却し、メジャーリーグの表舞台から姿を消した。
 そのオマリーが、なぜ今、時の人なのか。それは現オーナー、フランク・マッコートの不人気ぶりと無関係ではない。マッコートのオーナーシップの欠如については以前にも当コラムで指摘した。公共の財産である球団を私物化し、乱脈経営が原因で日本の民事再生法にあたる連邦破産法第11条の適用を申請する事態を招いた。

 ドジャースファンの支持率は皆無に近い状態だ。それが証拠にマッコートが球団を手放すことが明らかになった時点で、来季のシーズンチケットの予約は前年の同時期に比べて約3割もアップした。「マッコートのいないドジャースなら支持する」というわけだ。
 翻ってドジャースファンのオマリーへの信頼は未だに揺るぎがない。映画『シェーン』の名セリフ「シェーン、カムバック」をもじった「オマリー、カムバック」の声が、いたるところから上がっているという。

 オマリーは親日家としても知られる。長嶋茂雄や星野仙一、広岡達朗らと良好な関係を築いていたが、私が最も印象に残っているのは野茂英雄への愛情だ。
「日本での地位を捨ててまでメジャーリーグでやってみたいというキミの勇気を称えたい。僕はキミのような青年が好きなんだ」。この一言に野茂が心を打たれたのは言うまでもない。
「最終的にドジャースを選んだ理由は?」。私の問いに、野茂はこう答えたものだ。「それはオマリーさんがいたからですよ」

 仮にオマリーが復帰するとして経営母体はどうするのか。ある関係者は「子息がオーストラリアで球団を経営しており、その会社が資金調達しているようだ」と語る。他に「オマリーは投資グループを結成しようとしている。共同経営者のひとりとして手をあげるのでは」と見る向きもある。いずれにしても草の根の待望論は高まるばかり。オーナーの最大の資質は、やはり「人徳力」か。

<この原稿は11年11月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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