おそらく全てのスポーツ紙が全文を掲載していたのではないか。解任された巨人・清武英利球団代表兼GMの声明文も、それに反論するかたちで出された渡邉恒雄球団会長の談話も隅の隅まで読んだ。あれっ、と思った箇所がひとつある。
 それは渡邉会長が清武氏のGMとしての手腕を批判している件(くだり)。
<読売社内や巨人関係者から厳しい批判が私に届けられていました>と前置きし、こんな声を紹介しているのだ。
<「決断力がない。トレードがなかなか成立しない。“エビで鯛を釣る”ことばかり要求するため破談になった話も少なくない」>。

“鯛でエビを釣れ”ば問題だが“エビで鯛を釣れる”のなら結構なことではないか。渡邉会長が怒っているのは交換要員が不釣り合いで「トレードが成立しない」ことである。
 文面から拝察すれば渡邉会長にとって理想のGMとは「決断力があって、トレードを次々に決めていく人物」ということになる。つまりだ。渡邉会長は生粋のトレード推進論者だったのだ。
 ならば、ぜひ“鯛で鯛を釣る”大型トレードを仕掛け、実現して頂きたい。それは間違いなくNPBの活性化につながるだろう。
 FA制度が導入されて以降、めっきり大型トレードが少なくなった。かつてトレードは“ストーブリーグの華”だったのだが……。

 大型トレードのはしりと言えば大毎・山内一弘と阪神・小山正明の「世紀のトレード」。球界を代表する4番打者と大エースの交換に球界は騒然となったようだが、3歳だった私は記憶にない。仰天したのは阪神・江夏豊と南海・江本孟紀らによる2対4のトレード。当時、巨人や阪神からパ・リーグ球団への交換トレードは「放出」のイメージが強かった。阪神は田淵幸一も西武に「放出」した。見返りは真弓明信、若菜嘉晴、竹之内雅史ら。2対4のトレードだった。ロッテ・落合博満と中日・牛島和彦ら1対4のトレードも忘れられない。「両チームにプラスになるのがトレード」。それが当時の中日監督・星野仙一の持論だった。その意味ではGM的手腕も兼ね備えていた。

 近年は“エビでエビを釣る”小粒なトレードばかり。フロントに戦略がないのか、はたまた度胸がないのか……。FAや外国人だけが補強ではあるまい。「ストーブリーグ不況」の原因が、ここにある。

<この原稿は11年11月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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