源頼朝の鎌倉入りから六十一年後の仁治二年(一二四一年)のことだ。
<鎌倉のメイン・ストリート若宮大路の下下馬橋(しものげばばし)付近というから、一の鳥居の少し北である。当時、この辺りは繁華街だったらしく、「好色家(こうしょくのいえ)」が複数建っていた>
 これを読めばわかるように学術的な歴史書にしては文体のノリがいい。
 昼間から飲食店でドンチャン騒ぎしていた三浦泰村・光村ら三浦一族と、その向かいの店でコンパをしていた小山長村ら小山一族が、往来をはさんでケンカになった……。
鎌倉武士には勇敢で男らしいイメージがあるが、実態はかなり違ったようだ。もちろん、中には粗暴な人たちもいた。そんな猛者たちがつくったのが鎌倉幕府という説明には妙な説得力がある。
 こんな調子で歴史の実像に迫りながら、本書は歴史上の大きな謎を浮きぼりにする。すなわち、北条氏は幕府の実権を握りながら、なぜ将軍にはならなかったのか。
 これは日本史を習ったとき、誰もが感じる疑問だろう。北条泰時だって執権より将軍のほうが気分いいだろうに? もちろん事はそう単純ではない。本書はそれを野心的に論じている。 「北条氏と鎌倉幕府」 ( 細川重男著・講談社・1500円)

 2冊目は「スポーツ応援文化の社会学」( 高橋豪仁著・世界思想社・2300円)。 スタジアムでの鳴り物入り応援には興ざめだが、それもこの国のひとつのスタイルになっている点は否めない。応援のリズムや私設応援団の組織に関する分析が興味深い。

 3冊目は「心を整える」( 長谷部誠著・幻冬舎・1300円)。 著者はサッカー日本代表の主将として、南アW杯16強進出やアジア杯優勝に貢献した。「長所も華麗な経験もない」と述べる27歳は何を心がけ、どんなことを学んできたのか。

<上記3冊は2011年4月13日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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