日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人が命を落とす。この事実を知れば、がんはとても人ごとだとは思えない。
 著者であるジャーナリスト鳥越俊太郎さんの大腸がんは「ステージ4」だった。ちなみにがんのステージは進行度合によって1から4まであり、手術の結果、「最悪」だったことがわかる。
 がんは肺や肝臓にも転移し、著者はこれまで4回の手術を受けている。ステージ4の5年生存率(最後の手術から数えて5年)はわずか10%程度。まさしく「がんと向き合う日々」である。
 本書が他の“がん本”と一線を画すのは、がんの前触れに始まり、検査、告知、手術、抗がん剤治療、転移の実態までジャーナリストの視点から克明に、そして客観的に描かれている点にある。著者は取材者としての武器を「好奇心と集中力」と自己分析するが、それが遺憾なく発揮されている。
 余談だが著者が手術を受けた病院で学生時代、私は半年ほど看護助手のバイトをしたことがある。臨場感を味わいながら読めたのは、そうした理由にも依るだろう。
「キャンサークラブ」の招待状はいつ届くかわからない。今のうちに読んでおきたい。 「がん患者」 ( 鳥越俊太郎・講談社・1600円)

 2冊目は「誰でも1?泳げる! がんばらないクロール」( 高橋雄介著・ソフトバンク新書・730円)。 著者は田中雅美、中村真衣ら五輪メダリストを指導した競泳の名コーチ。ラクに速く泳ぐためのコツを伝授する。練習法から息継ぎのポイントなど初心者にも親切。

 3冊目は「野村克也解体新書」( 江本孟紀著・無双舎・1300円)。出版不況の時代にあっても野村克也の本だけは例外だという。いったい、その秘密はどこにあるのか。“知将”の表も裏も知り尽くした著者と江夏豊との対談が秀逸。

<上記3冊は2011年8月3日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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