バレーボール世界最終予選最終日、眞鍋政義監督率いる全日本女子は最後のロンドン行きの切符を獲得し、五輪3大会連続出場を決めた。「1位通過」という目標を掲げて臨んだ日本だが、終わってみれば最後の1枚をようやくつかむという苦しい結果となった。「予想以上に厳しかった」と語る選手が多い中、チーム最年長の竹下佳江にはそうした驚きは全くなかった。彼女の鋭い眼光には“覚悟”があった。
(チームの精神的支柱もともなっているベテランの竹下)
 ロンドン五輪出場まであと1勝に迫っていた第6戦、日本は強豪ロシアにストレート負けを喫し、4位に転落した。そして最終日、韓国が2位で2大会ぶりの出場を決めたため、日本は4位をキープすれば、アジア枠での出場が決まることになっていた。しかし、日本が置かれた状況は、決して楽観視できるものではなかった。この日、同じアジアのタイがキューバに3−1で勝利したことで、日本は勝つか、あるいは負けても2セットを取り、フルセットにもちこまなければならなかったのだ。

 その相手はセルビア。昨年のヨーロッパ選手権覇者の強豪である。世界ランキングこそ、3位の日本と6位のセルビアだが、日本は昨年11月のW杯でストレート負けを喫していた。さらに歴史を遡れば、ちょうど4年前の北京五輪最終予選では、2セットを連取しながらも、3セット連続で奪われるという屈辱を味わっている。そのセルビアから2セットを取るというのは、決して簡単なことではない。

 結果的に日本はセルビアから2セットを取り、ロンドン行きを決めたものの、試合自体はフルセットの末に敗れた。この敗戦が果たしてロンドンの本番でどう影響するのか。そのことを最も懸念していたのが、S竹下佳江だ。
「こういうところで負けてしまうと、選手たちの心に強く残ってしまう。それだけは避けたいという思いで戦っていた」

 彼女にとって今回の最終予選は4度目の挑戦だ。1度目は、女子バレーボールが五輪に正式採用された東京大会以降、不参加のモスクワ大会を除けば、史上初めて出場を逃した2000年だ。身長159センチの竹下は「世界には通用しない」と、その責任を負わされた。そして、彼女は2年後、バレーボール界を去っていった。

 しかし、当時V1リーグ(現チャレンジリーグ)だったJTマーヴェラスを率いていた一柳昇監督の熱心な誘いもあって、竹下は02−03シーズンに復帰し、04年には再び最終予選に臨んだ。そして、シドニーの時の雪辱を果たし、アテネ行きの切符を掴み取ったのだ。その後、08年には主将として、チームを2大会連続出場に導いた。

 そんな最終予選の厳しさを知り尽くした竹下は今大会、試合後のインタビューでほとんど詳しくは語ろうとはしなかった。
「勝ったことが全て」
「今日の課題を修正して、次の試合を全力で戦いたい」
 連日、彼女からは短めの言葉しか出てこなかったが、その目はどの選手よりも鋭さがあった。一つの勝ち負けに一喜一憂しないベテランの重み、そして最終予選への覚悟がそこにはあるように感じられた。
「誰よりも一番、私が厳しさを知っている」
 ロンドンの切符を獲得した最終戦後のインタビュー、竹下はそう語っていた。この言葉に、彼女の今大会への気持ちが全て集約されている。

 竹下にとって3度目となる五輪まで、あと約2カ月。今大会で見えた日本の課題を司令塔はどう見ているのか。
「今の日本は2枚のレフト線が決定打になっているので、相手は研究してきている。今後は違うかたちで先手先手でいくことができる組み立てをやっていかなければ、五輪での勝利はないと思う」

 ロンドンでは今回の最終予選を1位通過したロシア、2位で2大会ぶりに出場を決めた韓国のほか、米国、ブラジル、イタリア、中国と強豪がズラリと並ぶ。
「世界における今の日本のポジションは非常に厳しいところにある。現状は(五輪出場の)12チームの中でも中の下の方だと思う。しかし、出る以上は一番輝くメダルに挑戦したい」と眞鍋監督。あくまでも日本が目指すところは世界の頂である。今回の最終予選での苦しみが、“火の鳥NIPPON”の成長につながることを期待したい。

(文・写真/斎藤寿子)
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