子規こそは「野球の父」である。直球、飛球、四球、打者、走者。これらは全て子規の訳語だ。<生垣の外は枯野や球遊び>など、野球に関する俳句もたくさんつくっている。
 大好きな句がある。<正月や橙(だいだい)投げる屋敷町>。私も子規と同郷なのだが、愛媛の子供たちは冬場、橙をボール代わりにして、よく草野球をやった。都会の人は贅沢と思うかもしれないが、実はこちらの方がボールより安上がりなのだ。
 ある時、子規研究家で俳人の坪内稔典さんの著作を読んで知ったのだが、子規は「分類」の名人でもあった。友人を「愛友」「剛友」「賢友」などと仕分けして遊んでいる。中には「酒友」もいて吹き出しそうになる。
 稔典さんによれば子規の笑いやおかしみは「ずらし」によって生じているのだという。有名な自筆墓碑銘の結びの言葉は「月給四十円」。これもクスルと笑える。
『笑う子規』は2万4千ほどある俳句の中から、天野祐吉さんが「おかしみの強い句」「笑える句」を選んで、それに南伸坊さんがイラストを添えたもの。今の季節なら、これがいい。<一日は何をしたやら秋の暮>。 「笑う子規」 ( 正岡子規著・天野祐吉編・筑摩書房・1600円)

 2冊目は「メジャーで勝つ」( 長谷川滋利著・ベースボール・マガジン社新書・900円)。 MLBで9年間にわたって活躍した著者の知識と経験は、日本球界に必要不可欠な財産である。とりわけ将来、海を渡りたいと考えている選手は必読だ。

 3冊目は「凛と咲く」( 日々野真理著・KKベストセラーズ・1300円)。サッカーの女子W杯を制し、ロンドン五輪出場をも決めた「なでしこジャパン」。このチームはなぜ強いのか。そして、これからどこへ進もうとしているのか。

<上記3冊は2011年10月5日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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