台湾プロ野球は前後期2シーズン制をとっている。今年の前期シーズンは統一セブンイレブン・ライオンズが2位に10ゲーム以上の大差をつけて優勝を決めた。日本からやってきた鎌田祐哉が11勝をあげ、その原動力となったことは既に紹介したが、統一が独走した要因はそれだけではない。攻撃ではチーム打率はリーグ2位の.293ながらダントツの312得点をあげた。また投手力もチーム防御率は唯一の3点台(3.12)と安定していた。投打にソツのない野球をチーム内に持ち込んだのが、今季から日本人監督として指揮を執る中島輝士(元日本ハム)と、投手コーチ2年目の紀藤真琴(元広島)である。現地に渡った二宮清純が、2人にチーム改革の道のりを訊いた。
(写真:中島監督(右)は前指揮官が八百長事件で辞任したことで今年に入って急遽、就任した。隣は紀藤コーチ)
二宮: 台湾に来て、一番に感じた野球の印象は?
中島: 最初は正直、“なんだ、これ?”と感じましたね。ただ投げて打つだけで、野球の細かい部分ができていない。逆にいえば、教えがいがあるなと(苦笑)。

二宮: 台湾野球は、どちらかというとメジャーリーグ式で豪快なスタイルだと言われています。
中島: そうですね。一言で言えば力と力の勝負。細かい配球や小技を駆使する日本流の野球とは違いますね。ただ、台湾のやり方を否定するつもりはありません。それを大事にしつつ、必要なポイントをプラスすることを考えました。

二宮: ピッチャーもバッターもパワーがあって、潜在能力は低くない。
中島: 個々の能力は高いけど、1対1の勝負しかしていない。9人でチームとして、いかに戦うかという意識は薄いですね。攻撃に関してはチームバッティングを教えて、3つのアウトを取られる前にいかにうまく点数を取るかを選手たちに伝えています。

二宮: 投手起用の面で日本との違いはありますか?
紀藤: ローテーションは日本と同じように中5日、中6日で回しています。ただ、雨がよく降って中止になるので、ローテーションがすぐ崩れる。試合がダブルヘッダーで組み込まれるので、やりくりは大変ですね。しかも1軍の登録選手は25名(日本は28名)ですから、ピッチャーの頭数がどうしても不足します。

二宮: 中継ぎ、抑えといった投手分業制は確立されているのでしょうか。
中島: 投手の数が少ないこともあって、あまり役割分担ははっきりしていません。負け試合にローテーション投手が中継ぎで登板したり、あまり後のことを考えずに、どんどん使えるピッチャーをつぎ込んでいる感じです。相手ベンチを見ていて、“また今日もコイツ投げさせるの?”と思うことは多いですよ。
紀藤: だから年間通じて安定している選手、2、3年続けて結果を残せる選手が少ない。僕はこのチームに来た時に、まずセットアッパーと抑えを固定しました。それで先発は6回まで投げてくれればいいというシステムをつくったんです。

二宮: 選手の疲労に対するケアや、体力強化のトレーニングはしっかりしているのでしょうか?
中島: それも日本と比べたら劣っていますね。台湾の選手は基本的に走り込み、投げ込みをあまりやらない。下半身がしっかりしないとピッチングもバッティングもいい状態が続きませんよ。だから今年のキャンプでは、まず走り込みをさせました。シーズンに入っても続けてほしいんだけど、その点はまだまだです。

二宮: 先程、細かい配球は考えないという話が出ましたが、コーチを交えて事前にバッテリーミーティングはしないのでしょうか?
紀藤: 配球に関しては楽天の時に野村克也さんの下で学んできましたから、毎日ミーティングをして台湾でも教えています。おかげで最初に来た時からは、だいぶ変わりましたよ。それまでは2ボールでバッター有利になったら、必ずストレートを投げる配球でしたけど、今はミーティングをして、変化球でカウントを整えるようになりました。

二宮: つまり、台湾でもノムラ野球を浸透させていると?
紀藤: はい。キャッチャーにも観察眼を磨くように言っていますね。たとえば、前の打席で変化球で三振して、基本的にストレートしか待っていないバッターなのに、平気でストレートを要求する。そういった点をひとつひとつ話をして改めさせました。
中島: 配球をうるさく言ってくれたおかげで、今年はキャッチャーの高志綱のリードが良くなりましたよ。もともと台湾代表のキャッチャーなんですけど、今まではお山の大将でした。打たれたら「構えたところに投げなかった」と全部、ピッチャーのせいにしていましたから(笑)。今年はリードを考えるようになって、配球を読むからバッティングも良くなった。

二宮: 内外野の守備はどうですか?
紀藤: エラー絡みの失点が多いですね。ピッチャーが連打連打でノックアウトというケースは意外と少ないんです。台湾の野球に対する考え方は投げて打ってが基本なので、守備や走塁の部分にはあまり目が向けられない。エラーをしても、それで負けたという感覚がないから練習しないんですよ。でも実際にはミスで落としている試合はかなり多い。
中島: 今季の統一はエラーがかなり減りました。それが勝敗にも現われていると思います。

二宮: では、守りは基礎の基礎から徹底したと?
中島: 内野手なんて最初は正面で捕球できない選手がいましたからね。なぜか体の横で捕ろうとするからイレギュラーには対応できない。なぜだろうと思って、兄弟エレファンツの榊原(良行、元阪神)コーチに聞いたら、「小さい頃からグラウンド状態が悪いところで野球をしているせいで、“わざわざ正面に入らなくていいから横で捕れ”と教わっている」とか……。
紀藤: 日本の常識では考えられないですよね。守備力が弱いから、右バッターがセカンドゴロを打って、普通に一塁がセーフになることも少なくない(苦笑)。
中島: フライの落球も多い。練習をしないから目測を誤ってしまう。だから僕は球団に頼んで、ノックマシンを買ってもらいましたよ。それで選手たちに練習をさせています。

二宮: 言語の壁もありますから、細かく丁寧に教えるのは大変な作業でしょう。
中島: 確かにコミュニケーションの問題はありますけど、台湾に来て、教える作業は言葉で伝えるものではなく、気持ちで伝えるものだと感じています。たとえ言葉が分からなくても、こちらが一生懸命、手とり足とり教えれば、考えていることは伝わる。ありがたいことに台湾の選手たちは皆、素直です。今やっていることをしっかりと理解してくれれば、もっとレベルアップできると思います。僕も、台湾でいい勉強をさせてもらっていますよ。