チケット販売数は史上最多の270万枚。障害者スポーツの発祥の地ということもありロンドンパラリンピックは空前の盛り上がりを見せた。
「チケットを取るのさえ大変でした」。そう語ったのは、競泳女子100メートル視覚障害(S11)で金メダルを獲得した秋山里奈である。「48人が日本から私の応援に駆け付けてくれたのですが、予選からチケットは完売。当日券もないので現地の人に頼んで取ってもらいました。とにかく、あんな大歓声の中で泳ぐというのはこれまでで初めての経験でした」

 スタンドには超満員の大観衆。視覚障害者にとって最大の敵は雑音である。耳障りな音はなかったのか。
「それが全くありませんでした。イギリスの方々の応援は本当にマナーが良くて、あれだけ観衆がいても、スタート前になると絶対に静かになるんです。そこで怒られたのは日本のチーム(苦笑)。静かになったのを見計らって“○○さん、頑張れ!”って言うじゃないですか。あれって実はダメなんですよ。ピッと笛が鳴ったら静かにする。それがマナーですから」

 熱狂はしてもマナーは忘れない。それはアテネや北京では感じられなかったことだったと言い、秋山は続けた。

「仮に2020年に東京パラリンピックが開催されたとしても、ロンドンのように盛り上がるのか、マナー良く見ていただけるのか不安です。イギリスの人々は心の底からスポーツを楽しんでいるように感じられました。そのような大会にするためには、まずは国内での障害者の大会、たとえばジャパンパラや日本選手権に来てもらうよう努力することが大切です。ところが残念ながらそういう大会があること自体、あまり知られていないんですよね。だから、お客さんも少ない。これからは私たちももっと障害者スポーツの魅力を発信していかなければならないと考えています」

 むろん、施設も含めロンドンの全てが素晴らしかったわけではない。選手村は全てバリアフリー化されておらず、「私たちの棟にはエレベーターがなく、3階の私の部屋に行くには急な階段を上らなければならかった」という。これも2020年五輪・パラリンピック開催を目指す東京にとっては貴重な指摘である。

<この原稿は12年9月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから