21日に巨人が3年ぶりのリーグ優勝を決めるなど、プロ野球は佳境に入っています。今後はクライマックスシリーズ、日本シリーズと続くわけですが、2012年のシーズンを締めくくるにふさわしい熱戦が見られることを期待しています。さて、日本シリーズが終了すると、いよいよ来春に開催が予定されているワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けた活動が本格化します。3連覇を狙う“サムライジャパン”ですが、周知のとおり、つい先日まで出場が危ぶまれていました。今回起きたNPBと選手会との間で起こった騒動について、皆さんはどう感じられたでしょうか。
 率直な感想を述べれば、私自身は「残念」のひと言に尽きます。何に残念だったのかと言うと、選手会にあそこまでさせたNPBの態度です。選手会が主張し続けていたことは、本来であれば、NPB側がしなければいけなかったことです。ところが、言い訳や問題をすり替えたような発言をするだけで、全く動こうとしなかった。選手会が苦渋の決断として、「不参加」を表明せざるを得ない状況までつくったわけです。

 結局、選手会の言い分がある程度、受け入れられたということで、丸くおさまりはしましたが、全て後手後手のNPBの態度はいかがなものかと思ってしまいます。事の重大さを本当に理解していたのでしょうか。

 しかも、これが初めてのことではありません。第1回の時から、この歪んだ運営体制を選手会は指摘してきたわけです。にもかかわらず、3回目を迎えようとしている現在においても、ほとんど変わっていません。つまり、この数年間、NPBは全く改善の努力をしてこなかったということです。

 WBC出場の意義とは

 ここ最近、プロ野球人気は低迷の一途を辿っていると言われています。実際、地上波でのプロ野球中継は激減し、露出度がグッと減少しました。さらにサッカーのようなW杯もなければ、五輪も2008年北京大会を最後に採用競技から消えた現在、野球というスポーツを国内や世界にアピールできる場はそう多くはありません。

 その中でWBCは、野球というスポーツを広くアピールするとともに、日本野球の強さを知らしめるチャンスの場でもあります。そのWBCに連覇している日本が出場しないということが、どれだけ日本野球界にとってマイナスになるのか、さらにファンが離れていくきっかけとなるのか……。こうしたことを考えれば、NPBはWBCを真の世界大会へとするべく努力するはずなのですが……。

 果たしてNPBは、WBCの意義をどう考えているのでしょうか。本当に日本野球のことを考えているのでしょうか。とにかく、今回のNPBがとった言動は、野球関係者やファンが不信感を抱かざるを得ないものだったと思います。とにもかくにも、参加することが正式に決定し、安堵の気持ちでいっぱいです。

 拡大すべき議論の場

 現在は、“サムライジャパン”を誰が指揮するのか、という問題が浮上していますね。私がここで指摘したいのは、誰が監督をするのか、ということ以前に、その決め方にあります。なぜ、もっとたくさんの関係者が議論の場に参加できるような体制にし、もっとたくさんの意見を募ろうとしないのでしょうか。まずは、そこに疑問があります。

 そして、現役であるべきか否かということが取り沙汰されていますが、私見を述べれば、現役であるかどうかではなく、監督としての実績や資質の方が重要だと思います。なぜなら現場から離れて久しい人が、現場のことを知らないのかというと、そうとは限らないからです。指揮を執ることは久しくしていなくても、しばしば現場に足を運んで、現場を客観的な視点からきちんと把握している人もいるわけです。

 もちろん、現役監督の強みもあることでしょう。しかし、王貞治さんや原辰徳監督を見てもお分かりの通り、それはそれで非常に大変であることは否めません。つまり、いずれにせよ、プラスとマイナスの要素を持っているわけです。だからこそ、もっと多くの意見を出し合い、そのうえで決定すべきだと思うのです。

 改善の一歩となる画期的意見の抽出

 これは運営の仕方にも同じことが言えます。例えば、日本のプロ野球界にとって、シーズンを迎えるにあたり、非常に重要なキャンプやオープン戦の時期である2、3月にWBCが行なわれることは、選手や球団にとって大きな負担を強いられます。ならば、WBCの年だけは試合数を減らすということも一つ考えられます。しかし、個人タイトルのことを考えれば、「減らしてほしくない」という意見も出てくることでしょう。ならば、逆にシーズン途中から出場せざるを得ないWBCメンバーのことを考慮し、逆に試合数を増やした方がいいのかもしれません。または、開幕の時期をずらすことも考えられるでしょう。

 さらに、WBCで主力を欠くチームは、彼らが戻ってくるまでの間、どう凌ぐかが問題となります。では、こういうのはどうでしょうか。主力の代わりとなるような選手育成のためにWBCの間、日本では若手を中心に“天皇杯”を行なうのです。平等性を保つために、U−25など、サッカーのように年齢制限をしてもいいかもしれません。そこでスター選手が出てくれば、球団としては新たな戦力として使うことができます。アマチュアからも次なるドラフト候補が出てくる可能性も大いにあります。また、こうした画期的な意見が出ていることが報道されれば、世間も注目してくれることでしょう。

 何も、私はこうすべきだと言っているのではありません。あくまでもひとつの意見として、こういうものもあるよ、ということを言いたいわけです。少ない人数で凝り固まった意見を言い合っても何も変わりません。さまざまな意見の中から、優れたものを抽出し、またはミックスさせることで、よりよいものに近づくことができるはずです。第1回からほとんど何ら変わることのない運営体制に対して、そろそろ新しい意見を取り入れてもいいのではないでしょうか。 

 新スター誕生への期待

 さて、今回が3回目となるWBCですが、ファンが “サムライジャパン”に対して期待しているのは、3連覇はもちろん、次世代を担うスター選手の誕生ではないでしょうか。イチロー、松坂大輔、ダルビッシュ有……日本野球界が誇るスター選手たちは今、そのほとんどが海を渡ってしまっています。

 もちろん、国際化が進む時代の中では当然のことであり、そのことに対して反対をしているわけではありません。逆に言えば、MLBで活躍できるほど、日本人選手のレベルが高まり、そして認められている証拠でもあるのですから、喜ばしいこだと思っています。ただ、国内でスター選手が見ることができないというのは、やはり寂しいもの。世界各国が頂点を争うWBCで、ぜひ新たなスター選手が誕生してほしいなと思います。

 WBCといえば、日本で使用するボールとは質の異なる国際球への不安がつきものでしたが、今回はその不安はほとんどないに等しいと言っても過言ではないと思っています。2年前から国際大会を意識して、いわゆる“飛ばないボール”統一球を使用しているからです。

 実は、MLB関係者が日本の統一球に対して「これは飛ばないなぁ」という感想をもらしたという話もあります。もしかしたら統一球導入後、なかなか見ることのできない大味な野球が、WBCでは見られるかもしれません。“スモールベースボール”が主流と思われている日本野球ですが、今大会では一味もふた味も違った戦い方ができるのではないかと、密かに楽しみにしています。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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