23日にレギュラーシーズンが終了しました。信濃グランセローズは19勝17敗で前期に続いて2位。29日からは上信越地区王座をかけて新潟アルビレックスBCとのチャンピオンシップが始まります。その新潟には、前期は1勝6敗と大きく負け越しましたが、後期は4勝4敗の五分。内容的には信濃が上回っていた試合もあったとも感じていますので、初のリーグチャンピオンシップ進出を目指し、チーム一丸となって戦いたいと思います。
 投手がかみ合った後期は、いい戦いができたのではないかと思っています。各球団との対戦成績を見ても、それは明らかです。先述したように新潟とは4勝4敗と五分に終わりましたが、横浜(ファーム)を除いたリーグの他球団にはどこにも負け越していません。その要因のひとつは、絶対的エースが不在の中、抜群の安定感でチームに勝利をもたらしたクローザーの篠田朗樹(春日部共栄高−武蔵大)です。

 篠田の練習量は野手を含めてもチームNo.1。全体練習が終わってもジムなどに行って、黙々と練習をこなしています。その量は「こんなに練習して、よく次の日に投げられるなぁ」と、こちらが驚いてしまうほどです。他の選手の3〜4倍はやっているでしょうか。特に後半戦はコントロールが非常に良かったですね。これも鍛え上げた下半身によってフォームが安定したからでしょう。18セーブというリーグ新記録は、日々の努力の賜物なのです。

 また、先発では高田周平(関西創価高−創価大−信濃−阪神)が頑張りましたね。前期はあまり目立った活躍はできませんでしたが、後期に入って安定するようになりました。うまく緩急をつかってバッターのタイミングをずらしたピッチングは、ベンチからも非常に安心して見ていることができました。

 チームの最大の課題としていたミスを少なくするということについては、エラーの数を見ると、確かに昨シーズンよりは減っています。これは新外国人のマルコスや新潟から移籍した隼人(浦和学院高−千葉熱血MAKING−サウザンリーフ市原−新潟)が安定していたことが大きかったですね。しかし、勝てたゲームにもかかわらず、ミスで落としたことも少なくありませんでした。来シーズン以降の課題のひとつですね。

 19歳新人の学習能力

 打撃はというと、開幕当初はなかなか打線がつながらなかったのですが、後期に入って得点が取れるようになり、投打がかみ合ったゲームをすることができました。しかし、本来であればもう少し足を絡めて攻撃をしたかったのですが、新潟のように足を武器とする選手が不在に等しかったために、無死からランナーが出ても思い切って走らせることができず、犠打で送るしかありませんでした。

 一方の新潟はというと、俊足の持ち主が複数いますから、たとえ四球でも盗塁で二塁打と同じ価値を見出すことができるわけです。さらに俊足のランナーが塁に出ることによって、相手ピッチャーにもプレッシャーをかけることができます。“みずもの”であるバッティングとは異なり、足はシーズンを通して計算することができますから、まさに“武器”となります。この武器を持っているか否かが、今シーズンの新潟との差だったと思います。

 新戦力という点では、新人の中から誰も勝ちゲームで起用できるような選手が台頭してこなかった投手陣に対して、野手では19歳の宮澤和希(東海大三高)の成長ぶりを見ることができました。練習生として入団した彼は、前期の途中で選手契約を結びました。そして、後期の半ばからはスターティングメンバーに、9月15日からの7試合は打順を3番に入れました。

 もともとバッティングセンスに長けていることはわかっていましたが、彼の能力に最も驚いたのは学習能力の高さです。彼はピッチャーにしてやられたボールを、すぐに次の打席で打つことができるのです。さらにパンチ力もあります。印象に残っているのは9月15日の新潟戦。初回に新潟のエースの寺田哲也投手(作新学院高−作新学院大)からホームランを放ったのですが、これが実に素晴らしかった。寺田投手のスライダーをものの見事にとらえ、“これぞホームラン”というような弧を描いた打球が右中間スタンドへと運ばれていったのです。来年のホームラン王候補No.1に挙げてもいいかもしれません。

 宮澤はバッティングのみならず、足もありますし、さらにフライを捕るのもうまく、守備にも安定感があります。まさに“走攻守”三拍子そろった選手です。来年、開幕から活躍できれば、NPB行きも夢ではないでしょう。

 さて、前述したように29日からは新潟との上信越地区チャンピオンシップが始まります。リーグチャンピオンシップに進出するには1敗も許されません。何より大事なのは初戦です。負ければ終わりですので当然ですが、この初戦を取ることができれば、そこからはもう五分の戦いとなると思っています。

 重要なことは常に攻める気持ちを持ち続けながら、ミスをしないこと。つまらない四球で足の速い選手を出したり、バントやヒットエンドランのような細かいプレーでミスをしてチャンスをつぶさないことです。試合展開としては中盤までに1、2点でもリードをしていれば、後ろには絶対的な守護神・篠田が控えていますから自ずと勝機は見えてくると思います。バッテリーを中心に、守りからリズムに乗っていきたいですね。


佐野嘉幸(さの・よしゆき)プロフィール>:信濃グランセローズ監督
1944年4月1日、山梨県出身。甲府工業高から1962年、東映(現・北海道日本ハム)に入団。72年に南海へ移籍し、レギュラーに定着した。73年にはリーグ優勝に貢献する。75年のシーズン途中で広島に移籍し、同年チーム初のリーグ優勝に貢献。79年に現役を引退し、翌年から国内外の球団でコーチや二軍監督を務める。2001年〜03年にはMLBパドレスのスカウトに就任。04年〜08年は千葉ロッテのコーチを務めた。10シーズンより信濃の監督に就任した。
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