Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎(現日本サッカー協会最高顧問)には、リーグ誕生前から折に触れてインタビューを行ってきた。1年目のシーズンが終わった直後だから93年の冬だ。「20年後、Jリーグはどうなっているでしょう?」と問うた。川淵は「20年後? フッフッフッ」と含み笑いを浮かべ、遠くに視線を投げるようにしてこう答えた。「まぁ日本における選手の供給源の実情を考えるとトップが16で2部が16、合計32チーム。これが望ましい姿かな」
 10クラブでスタートしたJリーグは昨季からJ1、J2合わせて40クラブでシーズンを戦っている。J3も14年からスタートする予定だ。「これだけ発展するとは思っていなかった」。Jリーグ20周年記念パーティーで、川淵は語った。これは本音だろう。当初、川淵が掲げた「地域密着」の理念は「空疎」「アンチ企業」といった批判にさらされたが、もう勝負あったという感じだ。

 昨季は人件費(2011年度)がJ118クラブ中9位の広島と14位の仙台が優勝を争い、広島が初の年間王者に輝いた。Jリーグはわずか20年の歴史で9つものチャンピオンクラブを生んだ。記録を調べていて驚いたのだが、実はこれ、84年の歴史を誇るリーガ・エスパニョーラと同じ数なのである。優勝回数はレアル32、バルサ22。2強による王座占有率は実に65.9%。翻ってJリーグはここ3シーズン、名古屋、柏、広島と一度も頂点に立ったことのないクラブが連続して悲願を達成している。

 さて、こうしたJリーグの現状をどう評価すべきか。肯定的にとらえれば「実力伯仲の戦国リーグ」だが、一方で「どんぐりの背比べ」と冷ややかに見る向きもある。私見を述べれば、この20年でJリーグは「共存」に成功した。これからは「競争」という、もうひとつの車輪を回すことで成長路線へのシフトチェンジをより明確にすべきだろう。

 川淵にも意見を聞いた。「身の丈に合った経営に徹すべきクラブと、もっと投資をすべきクラブがある。後者のクラブまでも投資を控えていたのではJリーグはシュリンクしてしまう。もっと将来への責任を感じてほしい」。Jリーグにとってこれからの20年は、ある意味、これまでの20年より、もっと重要な意味を持つかもしれない。

<この原稿は13年5月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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