2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する洪水のごとき報道に埋もれている観はあるが、前年の19年に日本ではラグビーW杯が開催される。ラグビーの盛んな欧州と南半球の地域以外では、初めてのW杯開催だ。

 日本ラグビー協会は、19年大会の目標を「ベスト8」に置いているが、そのためには15年イングランド大会で世界のトップ10入り(現在は14位)がノルマとなる。

 現有戦力の底上げに加え、若手の台頭が待たれるのは、言うまでもない。
さる11月2日、日本代表(ジャパン)は東京・秩父宮ラグビー場で世界ランキング1位のニュージーラン代表(オールブラックス)を迎え撃った。テストマッチを行う上で、これ以上の相手はいまい。

 オールブラックスとは、それまで4戦し、全敗。95年南アフリカW杯では17対145と歴史的大敗を喫し、ラグビー人気低下の一因ともなった。
 前頭が横綱相手に一泡吹かせるには頭を下げ、前みつをとってしぶとく食い下がるしかない。

 果たして見せ場は試合終了間際にやってきた。6対54と大差をつけられながらも、ジャパンは試合を捨てなかった。決死のアタックを仕掛け、左展開から最後はWTB福岡堅樹(筑波大)がインゴール左隅に飛び込んだ。その瞬間、大歓声が起きたが、ビデオ判定の結果、福岡はタッチラインを割っており、ノートライ。

 試合後、福岡は悔しさをにじませながら、こう語った。

「上半身は行った感覚がありました。(リッチー・マコウが)押し出しに来ていたので、飛び込んで何とか体を残そうとしたんですけど……」

 実はこの“幻のトライ”には伏線があった。立ち上がり、福岡はマコウの突破を低く鋭いタックルで止め、ライン外へ押し出していたのだ。

「彼にやられたのは覚えていたよ」

 過去3度、国際ラグビーボードの年間最優秀選手に選ばれた男にこう言わしめたのだから、福岡は大したものである。

 175センチ、83キロ。ラガーマンとしては決して大柄ではないが、スピードとハードタックルがエディ・ジョーンズ代表ヘッドコーチの目に留まり、この春、晴れて代表入りを果たした。

 オールブラックス戦から1週間後、英国・エディンバラで行なわれたスコットランド代表戦では、2トライを決める大活躍でフィニッシャーとしての存在感を十分に見せつけた。

「エキサイティングなヤングプレーヤー。課題はあるが間違いなく向上している」とは、病気療養中のエディーに代わってジャパンの指揮を執ったスコット・ワイズマンテルヘッドコーチ代行。

 福岡自身も「スピードを上げ、体勢を低く持っていけば(世界相手に)戦える」と自信を持ったようだ。
 15年大会は23歳、日本での19年大会は27歳。逸材はジャパンの近未来を、しっかり見据えている。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年12月1日号に掲載されたものです>

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