今季は東北楽天が、日本シリーズでV9以来となる連覇を狙った巨人を4勝3敗で破り、創設9年目にして初の日本一を達成しました。レギュラーシーズンで無傷の開幕24連勝という快挙を成し遂げた楽天エースの田中将大は、日本シリーズ2試合目の登板となった第6戦で黒星はついたものの、翌日の最終戦には最終回にマウンドに上がり、きっちりと有終の美を飾りました。楽天にとっては、まさに田中で始まり、田中で終わったシーズンだったと言っても過言ではないでしょう。その田中は、オフシーズンに入ってからも話題の中心となっています。今や騒動と化しているポスティングシステムです。果たして野球ファンは、どう感じているのでしょうか。
 そもそもの騒動の始まりは、メジャーリーグ機構(MLB)が日本野球機構(NPB)に提案してきた新ポスティングシステムに対して、日本プロ野球選手会が反対したことにあります。これまでも高騰し続ける入札額の抑制を主張してきたMLBが新しく提案したのは、従来通り最高入札額を提示した球団にのみ交渉権が得られるが、実際に支払われる入札金は提示された最高額と2番目の額の中間にするというものでした。これをNPBも合意し、締結する方向で話が進められていたのです。

 ところが、これに選手会が異を唱えたのです。「新制度は選手にもNPBにもメリットがない」という文書をNPBに提出し、待ったをかけたわけです。しかし、その2週間後の今月14日には、2年間限定という条件で新システムの導入を承認することが発表されました。これでようやく決着するかと思われましたが、今度はMLBが新システムを一度白紙に戻し、修正案を提出すると発表したのです。その理由は「NPBからの返答が遅かった」こと。さすがにこれには「えっ!? 返答の期限があったの?」と驚きましたが、確かにNPBの対応はにぶかったことは事実でしょう。コミッショナー不在という事態であることも影響しているかもしれませんが、MLBがしびれを切らしたのも仕方なかったと思います。

 異を唱えるべきはポスティングではない!

 これまでの経緯で、私が最も腑に落ちなかったのは、選手会の言動です。過去にポスティングで落札された球団との交渉がうまくいかず、移籍が破談となったケースがあったため、そうしたことを防ごうと、提示された入札金の上位3チームに交渉権を与えるという内容を提案したことは理解できます。

 しかし、そもそも内容よりもポスティングというシステム自体が本当にあってしかるべきものなのかどうかを、選手会は考えるべきではないでしょうか。NPBは「選手のためにポスティングを継続させていく」と主張していますが、入札金は選手にはまったく入ってこないのです。つまり、選手には何のメリットもありません。いえ、それどころか、極論を言えば、ポスティングとは、球団が選手を人質にして金儲けしようとするためのものなのです。にもかかわらず、選手会がポスティング自体を反対せず、単に内容うんぬんを言っていたのでは、何十億という大金に目がくらんでいるNPBや球団の後押しをしていることになるのです。

 選手会が主張すべきは、ポスティングシステムの内容ではありません。議題に乗せるべきは、海外FA権取得期間の短縮です。NPBはポスティングシステムを継続させたいばかりに、「ポスティングとFA権とは別問題だ」と言い張っていますが、そもそも9年も待たなければならないからこそ、その前に移籍したい選手の要望に応えるために導入したのがポスティングなのですから、別問題ではないのです。ですから、選手会は引き下がることなく、ポスティングの内容うんぬんという横道をそれることなく、FA権取得期間短縮一本でいくべきなのです。

 日本球界を活性化させる海外流出

 現在は海外FA権を取得するには9年となっていますが、私はこれを6年まで引き下げるべきだと考えています。そうすれば高卒の選手は別として、大卒でプロに入った選手は28歳、大学から社会人2年間を経てプロ入りした選手は30歳で移籍することができます。つまり、最も脂ののっている時に勝負することができるのです。これはMLBの球団も、そして選手自身も願っていることでしょう。

 それでは、日本のプロ野球が衰退してしまう、という意見もありますが、私はそうは思いません。実際、日本のエースだったダルビッシュ有がメジャーに移籍した後、田中がその後をきっちりと継いで、プロ野球を盛り上げてくれました。その田中のメジャー移籍が言われていますが、もし本当にそうなったとしても、既に楽天には則本昂大というエース候補が台頭しています。さらに、セ・リーグには“和製ライアン”こと小川泰弘、高卒ルーキーながら10勝を挙げた藤浪晋太郎もいます。そして将来、スター選手になる可能性を秘めた若手がファームにはたくさんいるのです。

 しかし、ファームでは支配下登録選手のほかに育成選手も抱える今、以前よりも試合に出場する機会が減少しています。選手は実戦で成長し、結果を残すことで自信をつけていきます。つまり、選手を育てる土壌なくしてスター選手は出てこないのです。トップ選手が海外に行けば、その分、他の選手に出場機会が与えられます。そこにまた新たなスターが生まれる土壌がつくりだされる。日本プロ野球の活性化という点から考えてみても、海外FA権期間の短縮はプラスとなるはずです。選手会にはぜひ、惑わされることなく、FA権について粘り強く交渉し続けていってほしいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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