ソチ冬季パラリンピックのクロスカントリーとバイアスロンに出場する久保恒造の試合スケジュールを見てふと軍歌の歌詞が頭に浮かんだ。
<月月火水木金金>。休みなく勤務に励む海軍兵の士気を鼓舞するためにつくられた歌だが、高度成長期には土、日返上で働くサラリーマンも口ずさんでいた。ザ・ドリフターズが、バラエティー番組の中でこの曲の替え歌を披露したことで、私たちの世代にも馴染みが深い。
 手元に久保が出場するスケジュール表がある。8日・男子バイアスロン・ショート、9日・男子クロスカントリー・ロング、11日・バイアスロン・ミドル、12日・クロスカントリー・スプリント、14日・バイアスロン・ロング、15日・クロスカントリー・リレー、16日・クロスカントリー・ミドル。いくら何でも、これはハードワークに過ぎるのではないか。

 パラリンピックのバイアスロンもオリンピック同様、クロスカントリーと射撃を交互に行う。オリンピックとの違いがあるとすれば、クロスカントリーではシットスキーが用いられることくらいだ。

 久保は高校3年の時に交通事故で脊髄を損傷し、以来、車イス生活となった。この競技を本格的に始めたのは7年前からである。

 前回のバンクーバー大会はクロスカントリー1種目、バイアスロン1種目に出場し、それぞれ6位と7位に終わった。これで持ち前の負けず嫌いに火がついた。体力面を徹底的に見直し、弱点だった瞬発力を強化した。その結果がバイアスロンでは日本人初となる年間総合ランキング1位(昨季)だった。

 久保は語る。「この競技でトップのロシアの選手たちはラスト1周“ここが勝負だ!”というところでギアを一段上げることができる。それが僕との差でした。世界1位になったといっても、どのレースも秒差の争い。誰が勝ってもおかしくなかった。ソチもそういうレースになるはず」

 バイアスロンはクロカンから射撃、すなわち「動」と「静」の切り替えが勝負のカギを握る。久保が得意とするのは静の射撃だ。昨シーズンは180発中175発を命中させた。

 久保が出場する2競技7種目の中でも、注目はバイアスロンのミドルだ。「この種目では一番いい色のメダルを狙っている」。雪上の鉄人誕生を待ちたい。

<この原稿は14年2月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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