ラグビーは現在開催中の日本選手権が終わると、息つく暇もなく次なる戦いへの準備をスタートさせる。2015年ラグビーW杯イングランド大会の予選を兼ねたアジア5カ国対抗(5月)だ。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)率いる日本代表は来月中旬にはメンバーを発表し、同大会での優勝とW杯出場権獲得を狙う。昨年は強豪ウェールズを破るなど、進化をみせたジャパンをまとめるのが主将の廣瀬俊朗(東芝)だ。エディージャパン発足時、HCから直々に就任を打診され、周囲の信頼も厚いキャプテンに、15年に向けた決意を二宮清純が訊いた。
(写真:リーグ戦は左太ももの肉離れで離脱を余儀なくされたが、復帰して7季ぶりの日本選手権制覇を目指す)
二宮: 昨年はウェールズ戦、オールブラックス戦に欧州遠征と外国の強豪と数多く試合をこなしました。11月に対戦したオールブラックスは世界ランキング1位のチーム。実際に戦ってみての印象は?
廣瀬: オールブラックスは戦う前から相手にプレッシャーを与えてくるチームでしたね。向き合っただけでも、こちらが重圧を感じてしまう雰囲気がありました。実際にぶつかってみると、強いというよりもうまくて速い。プレーの判断も良くて、これが世界一の実力なんだなと感じました。

二宮: 過去の対戦はいずれも大敗。今回も「何点獲られるか」との声も聞かれる中、エディーHCは対戦が決まった時から「オールブラックス戦で勝つために練習する」とはっきり口にしていました。
廣瀬: 過去をいくら持ち出しても仕方のないことですからね。大事なのは、これから自分たちがどうしたいのか。それはエディーさんも話していましたし、僕たちも同じ考えでした。オールブラックスの選手を分析すると、BKの選手はタックルが比較的甘い。だからBKにどんどんアタックして、ボールを動かしていけばチャンスが出てくると見ていました。

二宮: 結果は6−54で敗れたものの、前半は日本の低くて鋭いタックルで相手の出足を止める場面もありました。オールブラックス戦後はすぐ欧州に渡り、スコットランド、ロシア、スペインなどと連戦をこなしました。この遠征も得るものがあったのでは?
廣瀬: 慣れない海外の環境で試合をし続けるのは大変でした。W杯の本番を想定したスケジュールだったので、いい経験になりましたね。どこと対戦しても普通に戦えることは分かったので、もう、どんな相手であれ、負ける気はしなくなりました。

二宮: その手応えは大きいですね。15年W杯へ着実にレベルが上がっている実感もあると?
廣瀬: いい方向に向かっていますね。ただ、もう少しレベルアップのスピードを加速していかないと、僕たちのミッションは達成できないと思います。

二宮: エディーHCは「15年W杯での世界トップ10入り」をミッションに掲げています。
廣瀬: そのためにはW杯で勝たなくてはいけないし、まずは予選を勝ち抜くことが前提になります。世界のトップ10に入ることで日本のラグビー界も変えていきたい。それが、もうひとつの目標です。

二宮: ウェールズに勝ったり、オールブラックスと真剣勝負をしたり、エディージャパンの活躍で変化の芽は出つつあるのでは?
廣瀬: 少しずつ変わり始めてはいますね。ウェールズ戦もオールブラックス戦もスタジアムは満員でした。日本代表の試合で、あれほど満員で盛り上がることはありませんでしたからラグビーへ追い風が吹いているように感じます。

二宮: 田中史朗選手(ハイランダーズ)、堀江翔太選手(レベルズ)、立川理道選手(ブランビーズ)と、世界最高峰のスーパーラグビーに参戦する選手も出てきました。
廣瀬: 海外で勝負する選手が出てくるのはいいことです。もっと海を渡る選手は増えてくるんじゃないでしょうか。彼らがプレーしていることで、スーパーラグビーの試合も普通に見られるようになりました。少し前までは僕の心にも、外国に対する憧れとともにコンプレックスがあったんです。「日本人よりも海外の選手がいい」というマイナスのメンタリティが長い間染みついている。その意識はまだトップリーグの中にも残っていますが、僕は対戦相手に外国人がいても、もう関係ないと思うんですよね。

二宮: 代表キャプテンとしての取り組みで、2人1組のグループをつくってミーティングをしていると聞きました。これは東芝の主将時代からやっていたそうですね。
廣瀬: はい。チームがまとまるにはコミュニケーションを密にとることがすごく大事だと思ったんです。2人で話をすると、お互いの考えがまとまって新たなアイデアも出てくる。ジャパンでは、その日の練習について良かったところと課題を話し合ってもらいます。その中で年上の選手が年下にアドバイスをすれば、自分もしっかりやらないといけなくなる。年下の選手も話を聞いてもらうことでストレスもなくなる。この作業をひとりのリーダーが全員に行うとなると大変です。だから小さなリーダーをたくさんつくりました。小さなリーダーから寄せられた意見を集約すれば、だいたいの考えは分かりますから。

二宮: なるほど。2人1組の組み合わせはどのようにつくるのですか。
廣瀬: ジャパンでは同じポジション同士でペアをつくって、メンバーが入れ替われば、その都度、変えています。組み合わせをつくる時は、選手の性格も考えますね。おしゃべりな選手同士だと、話は盛り上がるけど、内容が生産性のないものになりがちです。逆に無口な選手同士でもいけない。もちろん、“これはどうかな”と思った組み合わせが意外にうまく行くこともあるのでやってみないと分からない部分もあります。

二宮: 今年はW杯の出場権確保が当面の目標になりますが、進化のスピードをあげるための課題は?
廣瀬: 新たに何かをするというより、今までやってきたことを継続していくことになるでしょう。FWには今まで以上の強さが求められるので、フィジカルをどんどん強化する必要がある。BKに関しては海外の選手はスピードがあるので、僕たちも負けない速さを身につけなくてはいけないと感じています。もうひとつはスキルの向上ですね。実際に海外の強豪と試合をしてみると、体格差よりも、うまさ、速さで差があると痛感することが多かったんです。

二宮: 日本は世界のトップクラスに試合途中までは善戦できても、残り20分になってから大差をつけられるケースが少なくありません。このラスト20分の戦い方もポイントになりますね。
廣瀬: それは、おっしゃる通りですね。欧州遠征のスコットランド戦では最後の20分、明らかにバテました。逆にスペイン戦では向こうのほうが後半に疲れてきて突き放すことができたんです。基本的に80分間ずっとフルパワーで戦うのは難しいので、最初の20分と最後の20分に全力でいけるチームになりたいですね。

二宮: 19年のW杯日本開催に向けて、15年大会の位置づけは極めて重要です。15年で一定の成果をあげることが、日本開催の成功につながると言えるでしょう。
廣瀬: そうですね。15年に結果を出せば、強い国とさらにマッチメイクができるようになる。これができれば、19年までに日本はもっと強くなれると思うんです。だから15年大会でどれだけ頑張れるか。僕の人生において一番大きなミッションがやってきたととらえています。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(3月5日号)に廣瀬選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>