2月1日、例年通り、プロ野球12球団のキャンプが一斉にスタートしました。いよいよ球春到来ですね。今季はどんな展開になるのか、そしてどの選手が活躍するのか、今から楽しみにしている野球ファンも少なくないでしょう。もちろん、私も同じです。この時期になると、胸の高鳴りを抑えることができません。今回もキャンプ視察に行ってきましたので、私が注目した選手を何人か挙げたいと思います。
 効果抜群のインステップ修正

 まずは昨季、新人王こそ小川泰弘(東京ヤクルト)に譲ったものの、高卒ルーキーながら先発ローテーションに入り、10勝(6敗)を挙げた藤浪晋太郎(阪神)です。一番の変化は、昨秋から取り組んできた、ステップする左足の修正です。これまでの藤浪は3足半分、三塁側にステップする、いわゆる“インステップ”でした。今はまだ若いので大きな影響はありませんが、あまりインステップの幅が広いと、その分腰のひねりが必要になってくるため、身体への負担が大きいのです。そこで、インステップの幅を3足半から2足半と、1足分改善したフォームへと取り組んできました。

 キャンプでは、その成果が既にあらわれていました。体重が増えて、昨季以上に身体が大きくなったこともありますが、明らかに球の強さが増していたのです。その理由のひとつとして、インステップを1足分小さくしたことによって、リリースポイントがさらに前になり、しっかりとボールをたたけていることが挙げられます。そのために、打者の手元でのボールの強さが増し、紅白戦でも主力打者がさし込まれているシーンがよく見受けられました。また、昨季はやや苦手としていた左打者に対しても、インサイドへのボールをしっかりと投げることができていました。左打者が振り切れていませんでしたから、やはり手元での伸びがあるのでしょう。

 一方、変化球はまだアジャストしていない感じではありました。真っすぐが8割方、理想のかたちとなっているとすれば、変化球はまだ6割というところでしょうか。とはいえ、藤浪自身に特に焦りはないようです。ゆっくりと自分のペースでできている様子でしたので、順調なのでしょう。よく言われる“2年目のジンクス”もまったく気にしておらず、「昨季以上の成長を」という向上心のみでキャンプを過ごしている感じがしました。

 球界の“レジェンド”も健在

 若手の藤浪に劣らず、ハツラツさがあったのが、48歳大ベテランの山本昌さん(中日)です。今はまだ、真っすぐのキレや角度を重視するといった基礎的な練習ではありますが、これも例年通りのペースですから、何も心配することはありません。プロ31年目ではありますが、山本昌さんらしく、どんな練習も手を抜くことなく、しっかりと準備しているなという感じを受けました。

 先日、幕を閉じたソチ五輪では41歳のジャンパー、葛西紀明選手が話題となりましたね。彼がジャンプ界の“レジェンド”なら、現役最年長の山本昌さんは日本野球界の“レジェンド”と言っても過言ではありません。本人も葛西選手の活躍に刺激を受けているようですので、今季はさらなる活躍を期待したいですね。

 さて、ケガからの復帰を果たそうとしている選手もいます。そのうちのひとりが、久保裕也(巨人)です。2011年には20セーブを挙げて、巨人の優勝に大きく貢献した久保でしたが、その年のオフに右股関節、翌年5月には右肘の手術を受け、12年は2試合、そして昨年は1試合も登板することができませんでした。

 しかし、インタビューでも「野球をやれることが楽しい」という言葉が多く聞かれるように、今キャンプでの久保は非常に順調そうです。実際に見たところ、ボール自体も以前のような力強さが戻ってきていました。21日の韓国・LG戦ではフォークで2三振を奪いましたが、これはやはり真っすぐの強さがあるからこそです。打者のとまどっている様子を見ても、久保の状態の良さがわかりました。

 言わずもがな、久保の復帰はチームの内外に大きな影響を与えます。巨人としては、もともと強力なリリーフ陣がそろっているところに、実績のある久保が復帰するのですから、さらに層が厚くなります。一方、他球団にとっては巨人の投手陣を攻略するのに、さらに頭を悩まさなければいけなくなるわけです。いずれにせよ、3年ぶりにマウンドで生き生きとした久保のピッチングが見られるのが楽しみですね。

 大瀬良、期待できる1年目からの活躍

 そしてルーキーの中で、私が注目したのは“ドラ1”の2人。大瀬良大地(広島)と鈴木翔太(中日)です。まずは大瀬良ですが、さすがはプロ入り前から小久保裕紀監督率いる“侍ジャパン”に選ばれただけのことはあり、非凡なものが見てとれました。対外試合初登板となった22日の阪神とのオープン戦では、2回1安打1四球無失点。本人は「緊張した」と言っていましたが、確かに初回は全体的に球が上ずっていたものの、すぐに修正していたのはさすがです。特にフォームのバランスが非常にいいと感じました。既に野村謙二郎監督はローテーション入りを示唆しているようですが、実際に見た私としても納得です。どの評論家に聞いても評価は高く、フォームのバランス、球のキレや強さに絶賛でした。

 新人投手の多くが最初にとまどうのが、ストライクゾーンの違いでしょう。プロはアマチュアよりも若干狭くなりますから、大学時代までストライクと取ってくれていても、プロではボールになる。そこで少し中に入れようとしたボールを痛打されるというパターンが少なくありません。しかし、大瀬良はインサイドに角度あるボールを投げられていましたから、その点も大丈夫でしょう。フィジカル的にもしっかりしていますし、1年目からの活躍に十分に期待できます。

 そして鈴木ですが、彼のピッチングをひと目見た時、驚きとともに思い出したピッチャーがいました。岸孝之(埼玉西武)です。岸が新人で入った年のキャンプで初めて見た時、僕は「こんなにいいピッチャーがおったんや」と驚きました。フォームのバランスから、腕の振り、そしてボールのキレが非常に良かったのです。今回、鈴木を見た時、その時と同じ衝撃を受けたのです。

 しかも、鈴木が高卒ということを考えれば、どれだけ彼が非凡なピッチャーかがわかります。昨季、鳴り物入りでプロ入りした高卒ルーキーと言えば、大谷翔平(北海道日本ハム)と藤浪ですね。1年前、彼らを見た時、確かに「すごいピッチャーだ」と感じました。しかし、それは高めの球の強さでした。

 一方、鈴木がすごいのは、低めの球に威力があるという点です。手から離れたボールが、低い軌道のまま、まったく落ちることなく、スパーンとキャッチャーミットに入っていくのです。「えっ!? 高卒でこんなすごいボールが既に投げられるの?」と、本当に驚きました。リリースポイントが安定しており、腕を振るタイミングが抜群だからこそだと思います。

 とはいえ、1年目から活躍を期待する必要はないと思います。素質の高さは抜群ですが、まだ身体の線も細いですし、脆さも見え隠れするからです。それこそ大学に預けたつもりで、しっかりとプロとしての身体づくりをすれば、2、3年後にはきっと2ケタ勝てるピッチャーとなるはずです。

 キャンプも最終クールに突入し、既に16日からはオープン戦が始まっています。3月28日の開幕まで、残り1カ月。ぜひ、どの選手もケガすることなく、準備万端で開幕を迎えて、昨季以上にたくさんの熱戦を見せて欲しいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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