国際オリンピック委員会(IOC)にあって国際サッカー連盟(FIFA)にないもの――それは役員の定年制と任期制限である。
 現在、IOC会長の任期は1期8年、選挙に勝てば2期目として4年間の延長が可能だ。つまり最大で12年間指揮を執ることができる。
 かつてIOCのトップに任期はなかった。1950年代以降でも米国のアベリー・ブランデージ氏は20年、スペインのファン・アントニオ・サマランチ氏は約21年に渡ってローザンヌ(IOC本部)に君臨した。

 定年制と任期制限が設けられた背景には五輪招致にからむ不祥事がある。権力の集中は腐敗と不正を生みやすい。その反省から会長の任期は制限され、委員は70歳での定年(99年12月以前に就任した委員は80歳)に改められた。

 翻ってFIFAはどうか。ブラジルW杯開幕前日、サンパウロでの総会で、役員の定年制と任期制限の導入案は否決された。その席でゼップ・ブラッター会長は5選を目指すことを表明した。IOC委員でもあるブラッター会長は今年2月、冬季五輪開催地のソチで行なわれた会合でIOC委員の定年制を「老人差別」と批判した。ブラッター会長は78歳。あと2年で退任だ。「心身ともに健康」とは、ご同慶の至りだが、それと老人差別は別問題ではないか。

 失政もある。たとえば中東カタールでの2022年W杯開催決定。当初から日中の気温が40度を超える“灼熱の地”での開催は困難ではないかと見られていた。カタールの招致委員会は空調設備をつけることなどを条件にして選挙戦に勝利したが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。

 この5月、ブラッター会長は「(カタールへの決定は)間違いだった」と発言し、FIFAは弁明に追われた。「冬季開催もありえる」(FIFAのジェローム・バルケ事務局長)とも。開催時期を変更するなら、選挙をやり直すのが筋だろう。

 地政学上のリスクもある。カタール政府はイラクを混乱に陥れているアルカイダ系のイスラム教スンニ派武装組織「イラク・シリア・イスラム国」(ISIS)を支援しているといわれる。8年後に紛争が終結しているとは、とても思えない。

「絶対的な権力は絶対に腐敗する」と語ったのは英国の歴史学者ジョン・アクトン卿だ。FIFAは世代交代を進めるべきである。

<この原稿は14年6月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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