〽虹の地平をあゆみ出て〜。札幌の街に足を踏み入れると、条件反射のようにトワ・エ・モアの「虹と雪のバラード」を口ずさんでしまうのは、もちろん1972年に開催されたアジア初の冬季五輪・札幌大会の影響によるものである。
 空中で気をつけをするような笠谷幸生のスキージャンプ。70メートル級では金野昭次、青地清二とともに表彰台を独占した。誰が名付けたか“日の丸飛行隊”は、今なら間違いなく流行語大賞だろう。リンクで尻もちをついた女子フィギュアスケート、ジャネット・リン(米国)の愛くるしい笑顔も忘れられない。選手村の自室の壁に彼女が書き残した言葉は「Peace&Love」だった。

 五輪開催当時、約110万人だった札幌市の人口は、現在約194万人にまで膨れ上がった。地下鉄が開通し、地下街が建設された。このように札幌は五輪をテコにして飛躍的に発展した。

 その札幌市が昨年11月、2026年冬季五輪・パラリンピックの開催都市に立候補することを表明した。開催が決まれば、54年ぶりだ。上田文雄市長は「機は熟した」と意気込んでいる。

 問題はローテーションだ。冬季五輪の開催地は18年が平昌(韓国)、22年はアルマトイ(カザフスタン)か北京。20年夏季の東京を含めると3大会連続でアジア開催となる。難関を突破するのは容易ではない。

 それ以上に気になるのが、仮に開催が決定した場合、北海道における札幌市の一極集中化に、さらに拍車がかかるのではないかという点だ。北海道の総人口に対する札幌市の人口割合は、2010年の34.8%から40年には40.9%と6.1%も上昇すると見られている。

 ちなみに北海道における2番目の都市は旭川市で人口約34.7万人。札幌市とでは横綱と小結ほどの差がある。ならば札幌市を中心としながらも北海道全体での五輪を考えてみてはどうか。たとえばスキー競技の一部はニセコ、スピードスケートは帯広といった具合に。既存の施設を使えばコスト面でも安くつく。

 次の冬季五輪開催都市・平昌に対し、IOCは分散開催を提案していた。平昌の苦しい財政事情を考慮してのものだった。IOCは建設コストのかかる一極集中型から分散型へとカジを切りつつある。五輪に関心がある小規模都市には追い風となるかもしれない。

<この原稿は15年1月14日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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