米国では二遊間を「キーストーンコンビ」と呼ぶ。文字どおり二塁は要石。その付近は地政学上の要衝というわけだ。強いチームは例外なく、ここがしっかりしている。
 では名手を2人揃えれば、最強のキーストーンコンビができあがるのか。答えは否だろう。時代は異なるが、たとえば吉田義男と高木守道、あるいは大橋穣と辻発彦。阿吽の呼吸が成立するまでには、それなりの時間が必要なはずだ。
 開幕前、バリバリのメジャーリーガー黒田博樹の8年ぶりの復帰もあって、優勝候補の一角にあげられていた広島がつまずいた。6日時点で2勝7敗。単独最下位である。7敗のうち、1点差負けが4回。そのうち3つが延長サヨナラ負けだ。競った試合に弱いのは偶然か、必然か。私は後者だと考える。

 それを象徴するような試合が6連敗(6日時点)のスタートとなった3月31日の横浜DeNA戦だ。1回裏1死一塁の場面、DeNAの3番・梶谷隆幸の打球を2バウンドで処理したセカンドの菊池涼介は、二塁ベースカバーに入ったショートの木村昇吾にグラブトスした。ところが、これを木村がはじき、オールセーフ。その後、すべての塁が埋まったところで、アーロム・バルディリスの満塁ホームランが飛び出した。先発の大瀬良大地は3回7失点でマウンドを降りた。広島も反撃に転じたが、終わってみれば6対7。1点及ばなかった。

 木村がはじいたシーンを目の当たりにして、大学時代、無名だった菊池に目をつけた松本有史スカウトの言葉を思い出した。「菊池のボール回しについていけない選手もいた。それくらい動きが速かったんです」

 菊池のプレーを巡っては「もっと慎重にいくべきだった」との声もあるが、それは結果論だ。梶谷の足を考え、グラブトスでなければゲッツーは取れないと判断したのだろう。名手としては最大の見せ場だった。

 トスを捕り損ねた木村も守備には定評のある選手である。普段から二遊間を組んでいれば、難なく処理していただろう。しかし、キーストーンコンビを結成するのが今季初とあっては責められまい。阿吽の呼吸が育まれていなかった。

 広島にとって不幸中の幸いは、開幕直後のミスだということ。不具合を修正する時間は十分残されている。黒田は「一番大事なのは8月、9月」と語っている。

<この原稿は15年4月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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