独立リーグのチームとして初参戦したJABA四国大会は3連敗とプロとして残念な結果になってしまいました。特に初戦のJR九州戦は勝てた試合だっただけにもったいなかったです。先発のルーキー松本直晃は初回に失点。3回あたりからエンジンがかかってきただけに、立ちあがりに課題が残りました。
 確かに立ちあがりは、どのピッチャーにとっても難しいもの。しかし、先制点を許すと自身もチームも苦しくなります。キャンプ、オープン戦を通じてフォームも良くなり、後背筋を使ったピッチングができているだけに、これは今後、実戦の中で克服してほしいと感じています。

 その後、味方が逆転したものの、勝ちパターンで投入した新外国人のウェスリー・エドワーズ(米国)がピンチを招き、逃げ切ることができませんでした。エドワーズは150キロを超える速球が武器。ただし、変化球の精度が低く、どうしてもストレートに頼ったピッチングになってしまいます。この日も先頭打者にストレートを狙い打たれ、ヒットを許しました。

 さらに続くバッターのバント処理を焦りエラー。走者を背負った際のクイック投法や、フィールディングに難がある点も今後の修正点です。日本で活躍するには、この壁を乗り越えなくてはなりません。配置転換するのは簡単ですが、当面は引き続き、彼をセットアッパーとして起用し、早く日本の野球に適応させたいと考えています。

 一方、もうひとりの新外国人、ドリュー・ネイラー(オーストラリア)は先発で安定したピッチングをみせています。第2戦の三菱重工名古屋戦では7回無失点。150キロ超の速球に、変化球もカーブ、スライダー、カット、ツーシーム、チェンジアップと多彩です。しかもコントロールがよく、どのボールもカウント球になり、ウイニングショットにもなります。

 正直、NPBでも、これだけいろんな球種をコーナーに投げ分けられる外国人ピッチャーは少ないのではないでしょうか。香川からNPB入りした外国人といえば、アレッサンドロ・マエストリ(オリックス)がいますが、彼が四国に来た当時と比べても、ネイラーの方が上です。

 先発は、このネイラーに松本、そして中日から派遣された川崎貴弘を3本柱で予定しています。川崎は制球力に問題があると聞いていましたが、ピッチングを見る限りでは、そこまで悪いようにはみえません。さすがNPBのピッチャーだけあって、ボールにしっかり回転がかかっており、キレを感じます。

 ただ、187センチ85キロという体格をうまく使えていないように映りました。体幹が弱く、フォームが安定しないことがコントロールの悪さにつながっているのかもしれません。香川では実戦でどんどん経験を積んでもらいながら、力をつけつつ、バランスよく投げるスタイルをつかんでほしいと思っています。変化球もスライダーをひねりすぎて効果的に使えていない部分があるため、ストレートと同じ腕の振りで投げられるようにアドバイスするつもりです。

 11日からの開幕2連戦後は、1日空いて6連戦、1日空いて雁の巣に移動しての福岡ソフトバンク3軍戦2試合と、チームにとって最初のヤマがやってきます。NPBなら普通の日程とはいえ、慣れない新人や若手たちにとっては厳しいスケジュールと言えるでしょう。リリーフの竹田隼人太田圭祐にも先発に回ってもらいながら、スクランブルで乗り切ることになるはずです。

 NPBでも長いシーズンを戦う中で疲れがまったくないことはありません。むしろ疲れてきた時に、いかに自分のピッチングができるか。ここが本当の勝負になります。万全の状態でないからこそ、どこで力を入れ、力を抜くか。バッターを打ちとる駆け引きも覚えなくてはなりません。むしろ、シーズン最初に、いい勉強の機会ができたとプラスにとらえ、連戦に臨ませたいと思っています。

 連戦の終わりごろには、出遅れていた新人の原田宥希もデビュー登板できそうです。肩の痛みを訴えたため、少し調整を遅らせていましたが、今はキャッチボールやブルペンでキャッチャーを立たせて投げられるところまで戻ってきています。不安がなくなったのか、むしろ香川に来た時よりもいいボールを放っているのではないでしょうか。
 
 サイドから投げる原田の良さはボールの重さにあります。球速は140キロ程度でも、受けるキャッチャーは「手が痛い」と漏らしています。それほど威力があるのです。これはリリースの感覚が優れている証拠でしょう。最後の最後までボールを押し込めるからこそ球威が増す。阪神のクローザー呉昇桓の“石直球”と似ている部分があります。

 これだけ重いボールがサイドで投げられるのは楽しみです。もちろん、体の使い方など取り組むべきテーマはいくつもありますが、改めて“第2の又吉克樹”を狙える素材だと期待しています。

 オープン戦で対戦してみて、今季は4球団の戦力が拮抗していると感じます。愛媛は正田樹、小林憲幸と元NPBの先発2枚看板に2年目の東風平光一が伸びてきました。高知は台湾人助っ人のリン・ジェシェン、チェン・チーシェンが加わり、打線が強力になっています。昨季優勝の徳島も新人の福永春吾が開幕戦でソフトバンク3軍から16三振を奪ったように力があります。また高卒の吉田嵩も好素材です。

 どこが勝ってもおかしくない状況だからこそ、決め手になるのは、いかに選手の力を伸ばし、適材適所で役割を与えられるかだと考えています。その意味ではコーチの責任も重大です。育てながら勝つ。これを実践できるシーズンになるよう頑張ります。

 ホームの開幕シリーズは11日にレクザムスタジアム(対徳島、18時)、12日には新しくできた四国コカ・コーラスタジアム丸亀(対愛媛、13時)で行われます。たくさんの方に球場へ足を運んでいただければうれしいです。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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