6月7日に開幕した「EURO2008オーストリア・スイス大会」はいよいよファイナルの対戦カードが決定した。ドイツ対スペイン。強豪国同士の一戦は、29日、オーストリアのウイーンでキックオフされる。
 ドイツはグループリーグ第2戦でクロアチアに不覚を取ったが、決勝トーナメント進出後は、ポルトガルとトルコをいずれも3−2で連破した。
 決勝まで勝ち上がった要因は攻撃力。準々決勝からドイツは、ミロスラフ・クローゼがワントップを務め、その背後を左からルーカス・ポドルスキー、バラック、シュバインシュタイガーが陣取るフォーメーションに変更した。ボール奪取後のサイドアタックのスピードには目を見張るものがあり、2試合で6得点と結果を残した。

 そのなかでも特に輝きを放つ選手がいる。名門・バイエルンに所属するバスティアン・シュバインシュタイガーだ。この24歳のMFは、クロアチア戦でファウルへの報復行為を犯し一発退場、1試合の出場停止処分も受けた。それがいいクスリになったのか、復帰した準々決勝のポルトガル戦で1得点2アシストと全得点に絡む活躍をみせた。続くトルコとの準決勝でも先制ゴールをあげ、その存在感は大黒柱ミヒャエル・バラックにも迫る勢いだ。シュバインシュタイガーの魅力は直線的なドリブル突破と強烈なミドルシュート。プレースキックの精度にも定評がある。決勝でもサイドラインからの切り込みでスペインゴールを脅かすだろう。

 さらに、ドイツの強みはもうひとつある。「つまらないけど強い」と揶揄されるほどの試合運びの巧さだ。準決勝では、出場停止4人、故障者5人のトルコに、攻め込まれる場面が目立った。ドイツは全体的に動きが鈍く、最悪ともいえる試合内容だったが、結果的に逆転勝ちをおさめた。どんな状況でも勝利をたぐり寄せるだけの経験と実績がこのチームにはある。

 しかし、弱点がないわけではない。ポルトガル、トルコと2戦連続で2失点を喫した守備陣は不安材料のひとつだ。両翼にアグレッシブなタレントを配置したことで、高い攻撃力が期待できる半面、そのスペースを狙われる危険性が生じている。
  
 一方、スペインも前評判どおりの強さをみせ決勝進出を果たした。ここまでグループリーグを含めて負けなし。準々決勝のイタリア戦こそPK戦までもつれこんだが、それ以外は危なげない戦いを披露した。44年ぶりの欧州王者を目指すチームを支えるのは優秀なMF陣だ。短いパスをつなぎ、ボールポゼッションを高め中盤を掌握する。相手はボールを追いまわすだけで、みるみるスタミナを失っていく。

 好調なチームを支える中盤のひとりがセスク・ファブレガス(アーセナル)だ。セスクはボールを失いにくいドリブル、広い視野と多彩なパス、相手のスキを見抜く戦術眼を兼ね備えた理想的なゲームメーカーである。準決勝のロシア戦では途中出場ながら、2アシストと勝利に貢献。これまでは5試合中4試合が途中出場だが、出場時間289分で1得点3アシストとなかなかの成績を収めている。開幕戦での代表初ゴールやイタリア戦のPK戦で最後のキッカーを務めて成功するなど限られた時間ながら強いインパクトを残した。セスクの右足から繰り出されるパスはドイツにとって脅威となるはずだ。

 豪華な攻撃陣に目を奪われがちだが、5戦で3失点のみと守備陣の働きも見逃せない。カルロス・プジョルを中心としたディフェンス陣は決勝トーナメントで無失点を続けている。

 スペインの懸念材料は、これまで4ゴールをあげているダビド・ビジャの離脱だ。ビジャは準決勝でFKを蹴った際に足を負傷し、自ら交代を志願した。決勝を欠場することになればスペインには大きな痛手となるだろう。

 両国とも前線には優秀なタレントが名を連ね、攻撃力は互角。守備に目を移すと、スペインにやや安定感があるだろうか。しかし、ドイツには高い決定力を誇るセットプレーがあり、勝敗の行方はまったくわからない。

 主要国際大会でドイツは12年間タイトルから遠ざかっており、これは西ドイツ時代を含めてワーストタイ記録だ。対するスペインは1964年のEURO制覇が唯一のタイトルであり、近年はベスト8が最高。国民の期待を裏切り続けた。

“ゲルマン魂vs.無敵艦隊”――最終決戦の火ぶたは日本時間30日の3時45分に切って落とされる。月曜の朝は早起きしてしかと見届けたい。

※日付は現地時間