世界陸上ベルリン大会代表選考会を兼ねた東京国際女子マラソンが16日、東京・国立競技場を発着点とする42.195キロのコースで行われ、08年名古屋国際女子2位で、マラソン2回目の尾崎好美(第一生命)が2時間23分30秒の記録で初優勝、世界陸上への切符を手にした。2位は加納由里(セカンドウィンドAC)が2時間24分27秒、3位は北京五輪6位のマーラ・ヤマウチ(イギリス)が2時間25分03秒で入った。
 前半から速いペースで先頭集団を引っ張り、一時は独走態勢に入った渋井陽子(三井住友海上)は後半失速し、2時間25分51秒の4位に終わった。
 今回で30回の記念大会を迎えた東京国際女子マラソンは、一旦その歴史に幕を降ろし、来年から横浜で新たな国際レースとして生まれ変わる。
(写真:スタートから先手を取る(左から)尾崎、加納、渋井選手)
 スタート前には降り続いていた小雨も止み、気温は15.9度。参加した955名のランナーにとって絶好のコンディションとなった。レースは序盤から渋井、加納、尾崎、マグドラネ・チェムジョー(ケニア)の4人が速いペースで飛び出し、先頭集団を形成する。12km過ぎには渋井が他選手を引き離し、独走態勢に入り、一時は2位の加納に50秒差以上の差をつけた。さらに3位グループの尾崎、ヤマウチは2位から45秒差と離されていた。
 しかし、35km過ぎから渋井のペースが落ち始め、2位以下の選手が徐々に渋井との差をつめていく。
 そんな中、素晴らしい追い上げをみせたのが25km過ぎには4位にまで下がっていた尾崎だった。33km付近では並走していたヤマウチを引き離し、38km付近では加納に追いつき2位へ上がる。そして、過去にも様々なドラマを演出してきた急坂の下で一気に渋井を追い越しトップに立つ。その後も力強い走りで1位の座を守り、優勝のゴールテープを切った。
 尾崎にかわされながらも加納は粘り強い走りで、57秒差の2位でゴール。昨年に続き、後半失速した渋井は、ヤマウチに抜かれながらも4位に入った。

 今年3月の名古屋国際で初マラソンを2位で終えていた尾崎は、2回目の挑戦で初めての優勝を果たした。レース後の会見では「(優勝には)ビックリしました。渋井さんを抜くまで勝てるとは思っていなかった。優勝を初めて意識したのは、40km地点で沿道から後ろが離れていると聞いたとき。結果を気にせず攻めの走りができた」と、初優勝の喜びを驚きとともに笑顔で語った。
「初マラソンの名古屋で2位になって、1位の中村選手との差を実感した。それは力の差ではなく、彼女が勝って自分が負けたことで、注目される度合いが違った。自分も目立ちたいと思ったし、その時の悔しさが今日の優勝につながった」。負けず嫌いな一面が経験不足を補ったレースだった。
 今回の優勝で世界選手権への切符を手にした。ベルリンに向けて「世界で戦うことを意識して、目標を高くもって練習に取り組みたい。海外の強豪に通用するためにはもっと速いペースについていくことが必要。参加するだけでなく、メダルを目指してがんばっていきたい」と、今後の課題と目標を口にし、さらなる進化を誓った。

 尾崎と明暗の分かれた結果となった渋井は、レース後、「だいぶ理想的なレースはできていた。ラスト5kmで止まってしまったのは残念な結果。でも自分のレースができたので悔いはない。あと5kmを持たせる練習をして、また挑戦したい。練習量と期間を増やして(世界陸上の選考レースである)名古屋には間に合わせたい」と晴れやかな表情で語った。しかし、表彰式では観衆の前で涙を見せる場面もあった。彼女の持つスピードは既に証明されている。そのスピードを最後まで持続させることができるのか、今後の走りが注目だ。
(写真:悔しさのあまり涙する渋井。3位のヤマウチに声をかけられる)

 79年から30回に渡って素晴らしいレースを繰り広げた東京国際女子マラソンは、今日のレースでその歴史に幕を閉じる。来年からは装いも新たに、横浜を舞台に開催されることとなる。歴史ある大会の最後のレースで新たな才能が出現した。尾崎が世界の大舞台でどんな活躍を見せてくれるのか、09年8月ベルリンでの快走に期待したい。

 上位の成績は以下のとおり。

1位 尾崎好美(第一生命) 2時間23分30秒
2位 加納由里(セカンドウィンドAC) 2時間24分27秒
3位 マーラ・ヤマウチ(イギリス) 2時間25分03秒
4位 渋井陽子(三井住友海上) 2時間25分51秒
5位 サリナ・コスゲイ(ケニア) 2時間30分34秒
6位 スベトラーナ・ザハロワ(ロシア) 2時間30分42秒
7位 松原由貴子(旭化成) 2時間34分39秒
8位 林明佑美(十八銀行) 2時間35分04秒
9位 デラルツ・ツル(エチオピア) 2時間36分47秒
10位 田中千洋(大通) 2時間37分03秒