阪神タイガースの藤川球児投手、久保田智之投手らが、ソフトウェア会社のサイボウズ株式会社とともに骨髄バンク普及活動を支援するイベントを開催し、その一貫として野球教室を実施した。約50人の小学生を前にキャッチボールやピッチングを指導した藤川は「君たちが大人になる頃まで、僕たちもプロ野球選手をやっているつもりなので、対戦できるのを待っています」とエールを送った。
(写真:ピッチングの手本をみせる藤川)
 藤川は地元・高知の野球少年が血液の病気で骨髄移植を希望していることを知り、05年オフより、ドナー(提供者)登録への支援活動をスタートしている。日本のドナー登録者は2008年11月末現在で約32万人。500万人近くが登録している米国、300万人以上のドイツなどと比べると決して多い数字ではない。今回は、そんな藤川投手の取り組みにサイボウズ株式会社が共鳴。青野慶久社長も今年の夏に骨髄液の提供を行っており、タッグを組んで普及のためのイベントを開催することになった。

 野球教室には藤川、久保田両投手に加え、同じく阪神から橋本健太郎投手、東京ヤクルト・高井雄平投手が参加。「明るく元気に返事をして、楽しい野球教室にしましょう」との藤川のあいさつで始まった。キャッチボールでは久保田、橋本が手本を示す中、「投げる人は胸の高さに投げる。捕る人はボールをよく見て目の高さに合わせて捕る」とわかりやすくポイントを伝授。子どもたちのキャッチボールを見守っていた。

 その後は2班に分かれて、藤川と高井はピッチングを指導。久保田と橋本はノックに参加し、子どもたちの質問に答えた。「ピッチングは力を抜いて、最後のリリースの瞬間だけ力を入れる」「上から遠くに投げ下ろすイメージで」。藤川が子供たちに語りかけながら、軽く投球をみせると勢いのあるボールがミットにズシンと突き刺さる。子供たちは間近で見るプロのボールに目を丸くしていた。

 さらに藤川はひとりひとりのピッチングを見ながら丁寧にアドバイス。いい投球をみせた選手には「ナイスボール」と声をかけつつ、「ストライクがほしいと思って前に突っ込まないこと。コントロールは練習すれば良くなる。いいボールを投げることが大事」「前に出す足が開かないようにステップしよう」などと注意点を的確に伝えていた。また、「昔はしっかりためて投げるという教え方をしていたけど、今は違います。自然な体の動きの中で投げることを大切にしてください」と指導者へ話しかける場面もあった。
(写真:「上から吊られている感覚で体をまっすぐにしよう」。1対1で教える藤川) 

 日本を代表するクローザーの教えに、子供たちの目は終始、輝きっぱなし。「ナイスピッチ」と声をかけられた小学5年生のある少年は「すごくうれしかった。将来は藤川投手みたなピッチャーになりたい」と笑顔をみせた。また参加チームの監督も「プロから教えてもらう機会は滅多にない。勉強になりました」と感激していた。

「骨髄バンクも野球も助け合いの精神が大事。そのことに気づいてもらえれば」
 イベントを開催した青野社長は、今回の野球教室の目的を説明した。
「今日、教えたのは基本中の基本。身近な監督、コーチの指導をよく聞いて、プロ野球選手目指して頑張ってください」
 教室終了後は4選手がすべての参加者全員にサイン会を開催し、子供たちは大喜び。憧れのプロ野球選手が残したメッセージは、いつまでも彼らの心の中へ残るはずだ。

<元アイランドリーガーも参加>

 今回の教室では元アイランドリーガーがサポート役を務めた。サイボウズ野球部に所属する沢西康明さん、勝沢賢一さんの2人だ。サイボウズはプロスポーツ選手向けのセカンドキャリア支援を行っており、高知で2年間プレーした沢西さんが07年に、香川、徳島で3年間プレーした勝沢さんが今年入社した。
(写真:3年間で通算7勝をマークした勝沢さん)

 現在は営業マンとして顧客訪問の日々という沢西さんは、「これまで数字といえば防御率を気にしていたが、最近は売上を気にするようになった(笑)」と仕事にもかなり慣れてきた様子。勝沢さんは「野球と一緒で結果が出たらうれしい。お客さんに商品を買ってもらった時が一番」と新天地でのやりがいを感じているようだった。

 教室後は「藤川さんは軽く投げてもボールに伸びがあった。さすがトッププロだと感じた」と勝沢が語れば、沢西は「野球が縁でアイランドリーグにも行けたし、今の会社にも採用してもらった。そして、今日は藤川さんともお会いできた」と改めて野球への感謝を口にした。現在は社内で月1回程度、野球を楽しむ程度だが、関東在住のアイランドリーグ出身者とは今でも時々、連絡を取り合っているという。

 サイボウズの青野社長は「スポーツ選手は礼儀正しいし、少々、理不尽なことにも我慢できる。営業を行う上で、これは最も大事なポイント」と彼らを評価。今後も「可能な限り、元選手を受け入れたい」との考えだ。