北海道日本ハムに最後に名前を呼ばれたのは、166センチながら最速148キロのストレートを武器とするバイタルネット(新潟)のエース、谷元圭介投手だ。谷元投手は稲生高校(三重)から中部大学(愛知)に進学。卒業後は三富一彦監督からの誘いで、同社に入社した。昨年は6年ぶりとなる日本選手権出場に大きく貢献。今秋、満を持して日本ハムのプロテストを受け、見事プロへの道を切り拓くことに成功した。その谷元投手に今の気持ちを訊いた。
―― ドラフトで自分の名前が呼ばれた瞬間の気持ちは?

谷元: 嬉しかったですけど、それよりもホッとしましたね。プロテストでは打者5人に対して4つの三振を奪いました。自分の力を出せたと感じていたので、自信はあったんです。でも、やっぱり呼ばれるまではすごく不安でした。日本ハムは「6人くらい指名」と言われていたので、6巡目に呼ばれなかった時は、「あぁ、ないのかなぁ」と諦めかけたんです。そしたら7巡目で呼ばれたので、「よかったぁ」と。
 
―― 最も自信のある球は何ですか?

谷元: 真っ直ぐですね。他のピッチャーとちょっと角度が違うんです。身長が高い人だと上から下にいきますが、僕は小さいので逆に下から上に浮き上がる感じです。よく似ていると言われるのは武田久(日本ハム)さんですね。理想はピンポン玉が跳ね返るみたいに、ポーンとホップするようなボール。高めだけじゃなくて、低めでもそういうボールが投げられるようになりたいです。スピードは150キロには到達したいですね。これはいけると思っています。

―― 日本ハムでは中継ぎの即戦力として期待されているようですが。

谷元: これまで中継ぎ専門でやったことはありませんが、社会人では先発した次の日にリリーフしたりしていたので、不安はありません。特に先発にこだわってもいないです。中途半端に先発やってダメだったら中継ぎ、というよりは最初から中継ぎでやってその部門でのスペシャリストになれたらと思っています。

―― プロで活躍するために必要なものは?

谷元: スカウトの方からは「一番買っているのは気持ちだ」と言われました。僕自身、かなりの負けず嫌いですから、そういった強い気持ちを大事にしていきたいですね。ブルペンでいくらいい球を投げても、試合で出せなければどうしようもないですからね。いかに本番で自分のパフォーマンスを出せるかが重要だと思っています。

 仕事への集中力がひらめきに

 昨年、三富監督の熱心な誘いで縁もゆかりも無い新潟で社会人生活をスタートさせた谷元投手。雪国ならでは、社会人ならではの苦労も多々あったようだ。念願だったプロ入りは、それらを乗り越えてきたからこそのものだった。

―― 新潟に移り住んで苦労したことは?

谷元: とにかくめちゃくちゃ寒かったですね。三重や愛知は晴れることの方が多いんですけど、新潟の冬は常に天気が悪い。どんよりとしていて、やる気が出なかったこともありました。

―― 仕事と野球との両立は?

谷元: シーズン中は週に1日だけ昼から練習をさせてもらえました。でも、その代わりその練習にあてられた就業時間の分をあとの4日間でカバーするために7時半から17時まで仕事をしなければなりませんでした。最初は仕事が嫌でたまらなくてグダグダ゙やっていたんです。でも、昨年の都市対抗予選が終わってから「どうせ長い間、拘束されるならちゃんとやったほうがいいかな」と思い始めたんです。やりがいをもってやったほうが時間もすぐに過ぎるかな、と。それからは仕事にも集中しましたし、その集中力を維持しながら練習にも入っていけました。そしたら仕事中も野球のことでひらめくことがありました。
 例えばある日、「もうちょっと体を鋭くきったらいいのかも」とふと思ったんです。もちろん、それまでも自分では鋭くきっているつもりだったんです。でも、後でビデオで観てみると、思ったよりもきれてないんですよ。それでもっと軸を意識してやったらどうかなと。いわゆる体幹ですね。そしたら、それまで142〜3キロだったのが、いきなり球がビュンって速くなったんですよ。これも仕事に集中したおかげです。

―― 意識の変化は「プロに行きたい」という気持ちから?

谷元: いえ、逆にあまりプロへの意識はもたいないようにしていました。入社した時から2、3年やってプロに行けなかったら、野球を諦めて地元で就職しようと決めていました。でも、あまりそればっかり意識してしまうと試合で力が入っちゃいますから。もちろん練習の時は意識してやっていましたけど、普段や試合のときは逆に考えないようにしていましたね。

―― プロとはどんな世界だと想像していますか?

谷元: 今までは仕事があっての野球。今度は仕事自体が野球となるわけです。だから何をしても全部自分に返ってくるわけで、、そういった面では本当にがむしゃらさというか、ハングリー精神は必要だと思いますね。みんなスター選手ばかりですけど、僕も即戦力と言われているので頑張りたいと思います。
 でも、最初からうまくいかないほうが自分にとってはプラスかなとも思っています。最初にボコンと打たれたほうが、「なんで打たれるんだろう」って早い時期から考えられる。自分にとっての課題に気付くことができるので、先にちょっと打たれたいなと。そこでここで生き残るためには何が足りないのかを考えたいです。それでもずっと上がれないのなら、実力がないと認めるしかないと思っています。

 身長166センチはプロ野球選手としては非常に低い。それが投手となれば希有の例だろう。実際、谷元投手は現役投手として最も低い投手となる。今ではそれを武器とする谷元投手だが、大学卒業時には身長が壁となり、挫折しそうになったこともあるという。そんな彼だからこそ、子供たちに伝えたいメッセージがある。

―― 身長について話題となっていますが。

谷元: 特に気にはしていません。でも、大学4年の時には小さいからという理由でどこからも誘いがなかったんです。「いいものもっているんだけど、小さすぎる」と。他の選手に対して「何でアイツが入れて、オレが入れないんだよ」と思ったことも正直ありました。でも、バイタルネットの三富監督は身長関係なしにとってくれた。そして今回プロになれた。だから小さいからといって諦めちゃう子供たちに「小さくても野球はできるんだよ」ということをプロで活躍して示したいですね。

―― プロでの目標は?

谷元: みんな開幕1軍とかって言いますけど、開幕だけいてもしょうがないので、やっぱり1軍定着ですね。ファンの皆さんには小さいので、「何くそ魂」みたいなものを前面に出していけたらいいなと思います。

<心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる。>
 大学時代に読んだ『野村ノート』(野村克也著)に書かれてあったこの言葉を改めてかみしめながら、谷元投手はプロへの扉を開く。

谷元圭介(たにもと・けいすけ)プロフィール>
1985年1月28日、、三重県出身。中部大学4年時には愛知大学リーグで春秋2季連続でのベストナインに選ばれるなど活躍。2007年にバイタルネットに入社し、6年ぶりとなる日本選手権出場の立役者となった。身長166センチと小柄ながらストレートはMAX148キロを誇る。

(聞き手・斎藤寿子)


 携帯サイト「二宮清純.com」では、「次代を担うヒーローたち」と題し、ドラフト指名選手のインタビュー記事を先行配信中。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。

 当HP編集長・二宮清純の携帯公式サイト「二宮清純.com」http://ninomiyaseijun.comへ携帯で(au、ドコモ、ソフトバンク)今すぐアクセス!
<利用料>
315円(月額税込、登録月より有料)
<アクセス方法> ※トップメニューより
EZweb(au)
カテゴリ(メニューリスト) → スポーツ・レジャー → 総合 → 二宮清純.com
i-mode(docomo)
メニューリスト→ スポーツ → スポーツニュース → 二宮清純.com
Yahoo!ケータイ(SoftBank)
メニューリスト → スポーツ → スポーツニュース →二宮清純.com