昨季のプロ野球は渡辺久信監督率いる埼玉西武ライオンズがペナントレースから存分に力を発揮。終盤はやや停滞したものの、プレーオフ、日本シリーズでは再び息を吹き返し、4年ぶりの日本一に輝いた。投打ともに安定したその戦いぶりは、まさに黄金時代復活の幕開けと言っても過言ではない。その西武が今季も優勝候補の筆頭にあげられる。特に機動力、長打力ともに最強の布陣がそのまま今季も並ぶ打線は、他球団にとっては脅威そのもの。投手陣もエースの涌井秀章、若手の岸孝之が安定しており、加えてベテランの石井一久、西口文也が健在ぶりを見せてくれれば安泰だ。故障者さえ出なければ、今季もペナントレースを牽引する存在となり得る。
(写真:連覇を狙う西武・渡辺監督)
 最大の注目はどこが西武の連覇を阻止するのかにあるといっていいだろう。昨季、9年ぶりにAクラス入りしたオリックスは投手陣の出来次第か。なかでも昨年ブレイクした小松聖を筆頭に金子千尋、近藤一樹、山本省吾の“10勝カルテット”がカギを握る。さらに北海道日本ハム、千葉ロッテ、東北楽天が三つ巴でプレーオフ進出を狙うことが予想される。最下位から巻き返しをはかる新生・福岡ソフトバンクは、投打ともに実力者揃い。本領発揮となれば、優勝争いの一角を担う可能性も大きい。

 一方、個人タイトルの行方も気になるところだ。最大の注目は岩隈久志と(楽天)とダルビッシュ有(日本ハム)のエース対決。昨季はMVPに始まり、最多勝、最優秀防御率、そして沢村賞を獲得した岩隈に軍配が上がった。無冠に終わったダルビッシュだが、岩隈との防御率の差はわずか0.01。完投数では上回っており、本人は2年連続での沢村賞獲得を確実視していただけに、悔しいシーズンとなったに違いない。
 実は今季の開幕戦は日本ハムと楽天の組み合わせだ。既に梨田昌孝監督はダルビッシュの開幕登板を明言しており、楽天も岩隈が濃厚と見られている。開幕から日本を代表とするエース同士が火花を散らすことになりそうだ。

 セ・リーグは巨人、中日、阪神の3強時代が幕を閉じ、今季は群雄割拠、まさに戦国時代の幕開けとなることが予想される。エース上原浩治がメジャーリーグに移籍した巨人だが、投打ともに若手が台頭してきており、順当にいけばAクラスは妥当なところだろう。昨季、あと一歩のところでプレーオフ進出を逃した広島は、新球場1年目ということもあり、さらなる飛躍が期待されている。投手では昨季、15勝を挙げたルイスを軸に、大竹寛、若手の前田健太の先発3本柱が、打線では東出輝裕、赤松真人、天谷宗一郎の俊足トリオがチーム躍進のカギを握りそうだ。彼らが本領発揮すれば、優勝争いに加わることは十分に可能だ。また、2年目の松山竜平にも期待の声は大きい。昨季はウエスタン・リーグでリーグトップの75安打50打点を叩き出した。一塁には栗原、三塁にはシーボル、横浜から移籍した石井琢朗とポジション争いは厳しいが、広い新球場に松山の長打力は魅力的だ。

 3年連続でBクラスに沈んでいる横浜だが、首位打者の内川聖一、本塁打王の村田修一、成長著しい吉村裕基と強打者が揃っている。不安材料は投手陣だが、小林太志、桑原謙太朗、阿斗里、佐藤祥万などの先発陣や中継ぎの山口俊など、昨年1軍のマウンドを経験した若手投手陣の台頭で若返りが成功すれば、上位進出も十分に狙える。また、東京ヤクルトは若手投手の台頭に加えて持ち味である機動力をいかした攻撃を確立させることができるかが勝負のポイントとなる。両チームともにチームづくりの道半ばという感は拭えないが、それだけに化ける可能性もあり、決して侮れない。

 一方、近年優勝争いに必ず参戦してきた阪神と中日だが、やや停滞気味か。阪神の課題はエース不在と若手の台頭とここ数年変わらない。その中で最も期待されているのが2年目の白仁田寛和。昨季は大学時代に痛めた右肩を癒すためにスロー調整を強いられたが、秋季キャンプではキレ、質ともに十分のピッチングを見せ、首脳陣を喜ばせた。この白仁田が昨季の岩田稔のような活躍を見せられれば、投手陣に厚みが出る。打線とうまくかみ合えば、近年の強さを維持できるだろう。

 最も不安視されているのが中日だ。これまで機動力とパワーを兼ね備え、堅実に得点を稼いできた打線から、ウッズ、中村紀洋が抜けた穴は大きい。それだけに新井良太や堂上直倫といった既存の若手や社会人No.1野手として注目されているルーキー野本圭の活躍に期待がかかる。

 3月にはWBCが開催され、各チームの主力が集結する。体力的にも精神的にも大きな負担がかかることは避けられず、WBCの影響も少なからず出てくるだろう。果たして、今季のペナントレースはどんな戦いが繰り広げられるのか。2009シーズン開幕は両リーグともに4月3日。昨季以上の熱い戦いを期待したい。

 経営面で勝負の5年目 〜アイランドリーグ〜

 昨季、九州地区の2球団をエクスパンションした四国・九州アイランドリーグは節目の5シーズン目を迎える。昨年10月のドラフト会議では育成選手も含めて6名が指名を受け、育成の観点では大きな成果が出た。「年々、トライアウトに参加する選手のレベルが上がっている。プロへの近道と多くの人に認められる証拠」とリーグの鍵山誠CEOも手ごたえをつかんでいる。80試合のリーグ戦にNPBとの交流戦……。荒削りの石も磨けば光る。多くの実戦経験が選手の力を伸ばすことをリーグは証明してきた。今年もスカウトの注目を集める選手が各球団から現れることだろう。

 しかし、いや、だからこそ、そろそろ別の観点での結果が欲しい。発足以来、リーグは赤字経営を続けている。初年度の3億1497万円からは徐々にその額は減少しているが、2008年度も1億円以上の赤字が出る見込みだ。また、分社化した各球団をみても単年黒字を達成できていない。一昨年は高知が球団存続の危機に陥り、今オフも長崎が経営難により、リーグから2000万円の融資を受ける事態になった。後発のBCリーグは「単年度黒字を計上できそうな球団ができた」(村山哲二代表)ということを考えても、ビジネスとしての成功事例を早くつくることが必要だ。

 カギを握るのは集客だろう。昨年のリーグの1試合平均の観客数は886人。昨年より約200人以上減少した。要因は九州の新規球団の観客動員が振るわなかったことだ。長崎は515人、福岡は498人にとどまった。ナイター設備のない高知も337人と苦しい状況が続く。スタジアムにお客さんが集まらなければ、チケット収入はもちろん、グッズ等の販売から得られる収益も少なくなる。閑古鳥が鳴くスタンドでは、支援するスポンサーにもメリットがなくなる。ただ単に無料チケットで観客を増やしても仕方ないが、サッカーのアルビレックス新潟がそうだったように、まずスタジアムに足を運んでもらうことに積極的であるべきだ。

 昨年は愛媛のホーム開幕戦で初めて1試合の観客数が1万人を突破した。これはアイランドリーグが地域にしっかりと根付き、一工夫があれば多くのお客を呼べるコンテンツとなり得ることを証明している。ちなみに愛媛はホーム最終戦でも9130人の観客を集めた。この試合は愛媛の初優勝がかかった試合だった。
(写真:スタジアムがオレンジに染まった愛媛の優勝決定試合)

 当たり前のことだが、各球団の争いが熾烈になれば、観客はそれだけで増える。ここ数年、リーグ内では1球団の戦力が飛びぬけ、他球団がいかに独走を阻止するかに注目が集まっていた。今季はリーグを代表する選手たちが多くNPB入りを果たしたこともあり、6球団の格差は確実に縮まっている。どのチームからも「今年はどこが勝ってもおかしくない」との声が出ており、過去5年間でもっともおもしろい1年になるかもしれない。

 四国4球団で唯一、優勝経験がない徳島は元横浜の堀江賢治氏、前期最下位に沈んだ長崎は長冨浩志を新指揮官に迎え、心機一転、シーズンに臨む。香川で塚本浩二(東京ヤクルト)ら3名のNPB投手を育て、移籍した徳島・加藤博人新コーチの手腕にも注目だ。

 2010年には岡山、宮崎の参入による8球団構想も進んでいる。独立リーグの輪をもっと広げていくためにも、選手たちが活躍するグラウンド同様、経営面でのクリーンヒットを放ちたい。

優勝候補不在 新戦力の台頭がカギに 〜BCリーグ〜

 2年目の昨季は、富山サンダーバーズが北陸地区で前後期ともに優勝。プレーオフでは5連勝と無敗を誇り、初のリーグ優勝を果たした。また、四国・九州アイランドリーグチャンピオンの香川オリーブガイナーズとのグランドチャンピオンシップでは2連敗から2連勝して五分に持ち込むと、最終戦も延長戦にもつれこむ大接戦を演じた。結果的には惜しくも1点差で敗れたが、アイランドリーグとの実力差が確実に狭まっていることを証明するものとなった。
(写真:3季目に臨む富山・鈴木監督)

 3年目を迎える今季も、選手の入れ替わりが激しい独立リーグにおいては優勝候補はないに等しい。いつの時代も群雄割拠だ。ディフェンディングチャンピオンの富山も例外ではない。阪神から育成1巡目に指名された野原祐也、関西独立リーグの神戸9クルーズに移籍した小園司、そしてキャプテンとしてチームを支えてきた廣田嘉明が現役引退と、設立当初からチームを支えてきた投攻守の要が抜けた穴はあまりにも大きい。リーグトップタイの15勝をマークした小山内大和、同3位の11勝を挙げた木谷智朗の先発2本柱が中心。加えて群馬ダイヤモンドペガサスから移籍の雁部竜太も計算ができる投手だ。彼ら3人の負担を軽減するためにも小園、野原に代わる抑え、主砲の台頭が望まれる。

 昨季、連覇を逃した石川ミリオンスターズは、コーチ陣が総入れ替えとなった。投手コーチには元西武の森慎二、野手コーチには昨季まで石川でプレーしていた山出芳敬が就任した。両者ともに指導者経験はなく、未知数なだけに金森栄治監督の手腕が問われそうだ。投手中心の守り勝つ野球がモットーの石川としては、エースの南和彰以外に勝ち星を計算できる先発陣が欲しいところ。1年目に最多勝、最多奪三振の2冠に輝いた蛇澤敦の復活が待たれたが、その蛇澤が退団。投手陣の早期建て直しが最重要課題となりそうだ。野手ではルーキーの鈴木康平に即戦力としての期待が寄せられている。鈴木は180センチながら50メートル5秒台の大型俊足内野手。春日部共栄(埼玉)では主将、立正大では副主将を務めるなどキャプテンシーもあり、1年目から楽しみな逸材だ。

 昨季、1年目ながら地区優勝を果たした群馬ダイヤモンドペガサスは、今季も秦真司監督と河野博文、澤井良輔の両コーチが指導を行なう。チーム打撃は打率、打点ともにリーグトップの成績を誇った。首位打者の山田憲、打点トップを誇る丹波良太と井野口祐介、盗塁王の遠藤靖浩とスピード、パワーともに兼ね備えた打線は今季も健在だ。投手陣は先発の富岡久貴、抑えの越川昌和が柱となる。その他はチーム2位の勝ち星を挙げた雁部竜太が石川にトレード移籍し、若手の台頭が急務だ。

 昨季、最もチームの変貌を遂げたのが初年度の最下位から上信越地区前期優勝に躍進した新潟アルビレックスBC。しかし、前期はかみ合った投打が後期には7連敗、群馬とのプレーオフでは2試合連続で完封負けを喫するなど、息切れを起こした。今季は1年間戦えるスタミナが課題となりそうだ。先発3本柱のうち、藤井了、徳田将至の2人が退団したものの、東京ヤクルトを自由契約となった伊藤秀範が加入した。右のエースとして期待されており、左のエース中山大とともに先発を担う。打線は長距離砲の根鈴雄次、俊足の斗馬が抜けたが、本塁打王の青木智史を軸に稲葉大樹、阿部康生ら好打者は健在。隼人、頓所大輔ら既存の若手選手やルーキーの台頭が待たれる。

 前後期ともに地区最下位に終わった信濃グランセローズは、新監督に設立当初からGMとして球団にかかわってきた今久留主成幸を新監督に迎えた。投打ともに建て直しが必要だが、特に投手陣が課題だ。昨季のチーム投手成績は防御率(3.27)、被安打(637本)、被本塁打(24本)、失点(290点)と全てリーグワースト。先発、中継ぎ、抑えとフル稼働した鈴江彬が千葉ロッテに育成2巡目で指名され、抜けたこともチームには大きく響きそうだ。PL学園時代、桑田真澄とバッテリーを組んだ今久留主新監督、常総学院時代にはエースとして準優勝を果たした島田直也コーチ。甲子園で活躍した2人が、今度は指導者として同じチームのバッテリーを組み、投手陣のテコ入れに取り組むことになる。

 昨季、新規参入した福井ミラクルエレファンツは結果的には前後期ともに最下位に終わったものの、後期は一時首位を走るなど、着実に力をつけてきた。しかし、チームの大黒柱だった柳川洋平が福岡ソフトバンクに育成選手として指名され、エースは不在となった。この穴をどう埋めるのか。また、29歳の天野浩一新監督、31歳の木村一喜新コーチの若手とリーグ最年長、67歳の野田征稔コーチがチームづくりにおいてどんなコラボレーションを見せてくれるのか。2年目の福井に注目したい。

 話題性は充分、集客目標の達成なるか 〜関西独立リーグ〜

 日本で3番目の野球独立リーグ、関西独立リーグが4月にいよいよ開幕する。初年度は大阪府を本拠地に置く「大阪ゴールドビリケーンズ」、神戸市を本拠とする「神戸9クルーズ」、明石市の「明石レッドソルジャーズ」、和歌山県の「紀州レンジャーズ」の4球団が1チーム20選手で72試合のリーグ戦を戦う予定だ。

 関西独立リーグにはこれまでの独立と異なる点が2つある。1つは注目度の高さだ。きっかけとなったのは男性に交ざってプレーする初の女性プロ野球選手となる吉田えり(神戸)。リーグのドラフト会議で指名を受けて以降、新聞、テレビで大きく取り上げられ、年が明けても横浜・三浦大輔投手との合同自主トレプランが報じられた。これにより、リーグの認知度は関西のみならず全国的に高まった。開幕当初は地元への浸透でさえ一苦労したアイランドリーグやBCリーグとは大きな違いだ。

 また各チームを率いる指揮官には、現役時代に2064安打を放ち、阪神の監督も務めた藤田平監督(紀州)、元阪神投手の中田良弘監督(神戸)、近鉄で活躍した村上隆之監督(大阪)など関西になじみの深い元選手が就いた。選手の知名度が低い独立リーグにとって、監督は営業面でも“顔”となる存在だ。集客やスポンサーの獲得にも効果を発揮するだろう。
 
 もうひとつの違いは既にNPB球団が存在する都市部に旗揚げする点だ。兵庫、大阪、和歌山の人口は計1500万人。約400万人の人口規模で始めた四国アイランドリーグ、約700万人のエリアでスタートした北信越BCリーグ(いずれも名称は当時)と比べれば、ターゲットとなる野球ファンが多い。だが、NPB球団の存在はリーグにとって大きな壁となる可能性がある。特に同地域での阪神の人気は絶大。異なる魅力をいかに打ち出すかがポイントとなる。

 吉田ばかりがクローズアップされるが、各球団にはアイランドリーグ高知で最多勝に輝いた西川徹哉、BCリーグ富山の守護神だった小園司(いずれも神戸)、WBC台湾代表候補にも選出された呉承達(紀州)など、力を持った男性選手も多い。先行の独立リーグでは立ち上げ当初、実戦経験の乏しい選手が大半で、ゲームの質が課題となった。その点でも比較的レベルの高い試合が開幕から見られそうだ。

 1年目の観客動員目標は1試合あたり2000人。アイランドリーグやBCリーグでは初年度の目標を達成できず、思うようにいかなかった面もあった。2010年からは三重スリーアローズの参入が決まり、滋賀、京都、愛知と一気に8球団へ拡大する構想がある。ゆくゆくは首都圏にもリーグを発足させるプランだ。独立リーグの本場・米国でも大都市圏に球団を展開していくケースは珍しい。関西での試みは都市型独立リーグの成否をはかる試金石となるだろう。果たして関西独立リーグは最初のハードルをクリアできるのか。

(斎藤寿子、石田洋之)