14日間にわって熱戦が繰り広げられたテニスの全豪オープンが2月1日に幕を閉じた。今大会、男子シングルスの頂点に立ったのはラファエル・ナダル(スペイン)。2年ぶりの優勝を狙ったロジャー・フェデラー(スイス)を決勝で破り、スペイン人選手として初の快挙を成し遂げた。
“赤土の王者”――2005年から08年の全仏オープンで4連覇を達成するなど、ナダルはクレーコートでは敵なしである。長きにわたって王者の座に君臨してきたフェデラーでさえもクレーではナダルにかなわなかったほどだ。だが、クレー以外のコートではなかなか勝てなかったのもまた事実である。ナダルの強さはクレー限定とされてきた。

 しかし昨年のウィンブルドンで4時間48分の死闘を制し、“芝の王者”フェデラーから冠を奪い取った。その余勢を駆って、8月には237週ランキング王者の座を守り抜いてきたフェデラーを追い抜き、悲願のATPランキング1位の座に就いた。そして今大会、ハードコートでの初制覇。これで全コートでのグランドスラムを達成したナダルに対してフェデラーに代わる「真の王者」という見方もできるだろう。

 ナダルの技術面での向上はとどまるところを知らない。本来のトップスピンを加えた強烈なショットに加え、相手のリズムを狂わせるスライス、相手にプレッシャーをかけるネットプレー、サーブもスピードこそ時速200キロに到達しないが、回転をかけたスライスサーブなど、年々、自らの欠点を克服し続けてきた。

 そして、ナダルの最大の武器ともいえる軽快なフットワークも少しも衰えていない。縦横無尽にコートを駆け回り、どんなボールでも絶対に諦めない。その野生的とも言える動きは相手にとってはまさに脅威だろう。しかしその半面、足や腰への負担が懸念されてきた。特にハードコートは選手の体に与える衝撃が大きい。ナダルがこれまでハードコートが用いられている全豪、全米オープンで決勝進出できなかったのは、こうした足への負担も要因の一つだといえる。

 今回、ナダルは準決勝のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)戦では大会史上最長の5時間14分にも及ぶ試合を戦い抜いた。一方のフェデラーは準々決勝、準決勝とストレート勝ち。スタミナの面では明らかにフェデラーが有利だった。実際、ナダルは決勝の第3セットの途中、「足に違和感を覚えた」とコメントしている。2試合連続でのフルセットに加え、ナダルのプレースタイルを考えれば、当然の疲労だ。下馬評でもフェデラーが有利と見られていた。

 にもかかわらず、フルセットの末に勝利を収めたのはナダルだった。確かに彼のプレーは素晴しかった。積極的かつ冷静だった。だが、それ以上にこの日のフェデラーはらしくないミスが目立った。凡ミスを意味するアンフォースドエラーは64(ナダルは41)。ダブルフォルトは6(同4)。試合後のコメントで自ら反省点の一つに挙げたファーストサーブの入りは、52%(同64%)だった。これまで安定性と精密性に優れたプレーで魅了してきたフェデラーには、あまりにも似つかわしくない数字である。

 ナダルが得意とするクレーの全仏以外で、4大大会で初めてフェデラーがナダルに敗れたのは昨年のウィンブルドンだ。「やれることはすべてやった」。その時彼はそう言って、清々しい笑顔を見せていた。

 ところが今回の表彰式では一転、フェデラーの顔から笑顔はほとんど見られず、その代わりその目からは涙がとめどなくこぼれていた。あのいつも冷静で落ち着き払った彼が、大衆の前で泣くというのはよっぽどのことだ。それほどまでに悔しかったのだろう。相手にではなく、自分への怒りというべき感情が込み上げてきたのではないか。

 昨年の全仏から始まり、ウィンブルドン、北京五輪に続いて全豪までも制し、ランキング王者をも奪取したナダル。それに比べてフェデラーは全米で優勝したものの、元王者にとっては物足りない結果が続いている。果たして、このままナダルがフェデラーとの差を広げていくのか。それとも全仏でフェデラーがナダルの5連覇を阻止し、屈辱を晴らすのか。2人の「ライバル物語」の行く末がますます気になる。