千葉ロッテマリーンズの“顔”だったボビー・バレンタイン監督が今季限りでチームを去る。
 先頃、千葉ロッテの瀬戸山隆三球団社長が明らかにしたもので2010年以降は契約を更新しないという。
 ボビーは2005年にチームを31年ぶりの日本一に導き、ファン獲得にも貢献したと自負していただけに、この通告にはショックを受けた様子。

 報道陣にこう語っている。
「来季の外国人補強の話をするつもりで会談に臨んだが、最初の話が10年(で契約が切れる)のことだったので驚きました」
「今はロッテが一番いい方向に向かうために全力を尽くすだけ。最近5年間、いいチームになり、多くのシーズンで勝ち越した。観客動員も伸びた。変えていかなければいけないことで非常に驚いたが賛同して向かっていく」
 聞けば、1年5億円(推定)という高年俸に契約打ち切りの最大の理由があるという。千葉を本拠地にして以降、球団の人気は格段に高まったが、それでも球団はまだ30億円前後の赤字。それを宣伝広告費という名目で相殺してきた。
 しかし米国発の金融危機に端を発した実態経済の悪化を受け、親会社の経営環境も厳しさを増してきた。少子化が進めば、市場はさらに縮小することになる。
 今回の“ボビー切り”は経費削減策の一環と見ることができる。「ボビーの役割は終わった」と球団は判断したのかもしれない。

 気になるのはファンの反応だ。ボビーは95年に来日し、チームを10年ぶりの2位に引き上げた。
 しかし広岡達朗GM(当時)とソリが合わず、1年限りで解雇された。
 以降、チームは再びBクラスの常連に逆戻り。ボビーが再来日するまでの8年間は“暗黒の時代”と呼ばれたものだ。
 ボビーは昨季まで、千葉ロッテで6シーズン指揮を執ってきたが、通算成績は432勝373敗18分け。勝率5割3分7厘。客観的に評価すれば及第点だ。
 ボビーを切るのはいいとして、10年以降、チームが再び弱体化すればファンの反発は必至だ。それは観客動員にもはね返ってくる。球団は「安くて腕のいい監督」を連れてこなければならない。
 あくまでも推測だが、球団は就任1年目で埼玉西武をBクラスから日本チャンピオンに導いた渡辺久信監督のような人材を探しているのではないか。
 ちなみに渡辺の年俸は5000万円(推定)。これは12球団の監督の中で、下から2番目だ。
「探せばウチのOBにも優秀な人材がいるのでは……」とフロントは思い始めたのかもしれない。

 ところで今季限りと言えば、東北楽天ゴールデンイーグルスの野村克也監督もそうだ。球団の島田亨社長は「優勝してもしなくても野村監督は今年1年限り」と明言している。
 これには野村も不服だったようで、こんな本音を口にしている。
「(1年しか指揮を執らない)監督を選手たちは信頼できるか。そういうメンタルな部分が大きく影響してくる。(野球には)そういう目に見えない、数字に出ないものがある。フロントにはそこを理解してもらいたい」
 島田社長が「1年限り」と早めに言明したのは理由があってのことだろう。
 楽天は新規参入のシーズンを田尾安志監督で戦った。結果は38勝97敗1分け、勝率2割8分1厘と目も当てられないような成績だった。
 しかし、戦力を考えれば、田尾ひとりを“戦犯”にするわけにはいかない。誰が指揮を執っても成績はあんなものだったろう。
 シーズン終了後、球団は「3年契約」だった田尾のクビを切った。これがファンの反発を買った。「弱い球団を率いてよくやってくれたのに、この仕打ちはあんまりではないか」というわけだ。
 ファンの反発は翌シーズンの観客動員数にはっきりと表れた。2年目、野村が監督に就任して、9勝ばかり上積みしたにも関わらず観客数は前年より約3万人も下回った。
 これは球団にとって誤算だったに違いない。良かれ、と思ってやったことがファンの反発を招き、まさかの観客動員減。同じ轍を踏まないように、早々と球団の方針を打ち出したと考えるのはうがち過ぎか。

 私見を述べれば、千葉ロッテも東北楽天もシーズンが始まる前に方針を明確にし、ファンにメッセージを発信したのは正しかったと考える。後でもめれば球団も親会社も、そして当事者もイメージが悪くなる。言いにくいことは早めに言っておくことが肝要である。

<この原稿は2009年1月27日号『経済界』に掲載されたものです>

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