WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)連覇の興奮冷めやらぬ4月3日、プロ野球はセ・パ両リーグが同時開幕する。昨季、まさかの最下位に沈んだ福岡ソフトバンクホークス。14年間に渡って指揮を執った王貞治監督が退任し、今季からは46歳の秋山幸二新監督がチームの先頭に立つ。オープン戦は15勝7敗2分と12球団トップの成績で巻き返しへの準備は整った。新生ホークスはどうシーズンに臨むのか? キーマンは誰か? キャンプ中の指揮官を二宮清純が直撃した。
二宮: 昨季は思わぬ最下位。この戦力では予想外の成績だったと思います。
秋山: ケガ人が多かったのが反省点ですね。シーズンを通じて、まともに選手が揃ったことがなかった。若手が頑張ってくれたけど、彼らは長丁場を戦った経験がない。最後の方は体力的にも精神的にも他との差が出たように感じています。

二宮: 小久保裕紀、松中信彦といった主力選手たちもベテランの域に達してきましたから、生きのいい若手をいかに主力に育てるかがテーマになるのでは?
秋山: 現役時代、強かった頃の西武は、スタメン9人のうち8人は、ずっと同じメンバーでした。ダイエーも僕が移籍した頃からどんどんチームを作り上げて、ほぼメンバーが固まったところで1999年に優勝しましたよね。現状はそういうチームになっていない。もう一度、チームを作り直さなくてはいけない段階に入っています。変化しなくてはいけない。

二宮: 流行りのCHANGEですね(笑)。
秋山: そうです(笑)。チームが世代交代する中で、まず川崎(宗則)がショートで出てきて、その後に本多(雄一)がセカンドのレギュラーをとった。その次に続く若手がほしい。

二宮: その一番手は、やはり4年目の松田宣浩あたりになるのでしょうか? 昨年は打率.279、本塁打17本。ホークスではひさびさの若い長距離砲が出てきたように感じます。
秋山: 松田は体も強いし、30本くらいは打てる力は持っていますよ。課題はインサイドの強い球をいかにさばけるか。遠くのものを遠くに飛ばすより、近いものを遠くに飛ばすほうが難しいですからね。

二宮: 監督は4年目で4本塁打だったのに、5年目に40本塁打と一気に成績を伸ばしました。ところがプロでは1年は良くても、後は伸び悩む選手もいる。その点では松田は今季が勝負です。
秋山: 伸び悩む選手には「油断」があるんだと思います。結果を残したことで、ホッとするというか、一段落ついてしまう。目標設定が中途半端なのかもしれません。

二宮: もうひとつの問題はキャッチャー。西武の伊東勤、ヤクルトの古田敦也、ホークスの城島健司……。強いチームは扇の要がしっかりしています。
秋山: 城島がいなくなってから、ずっと固定できていませんからね。伊東や古田にも話を聞いたのですが、両方とも「我慢して使うのが一番じゃないの」という意見でした。

二宮: 正捕手の1番手は高谷裕亮ですが、アイランドリーグから来た育成出身の堂上隼人もいい選手です。
秋山: キャッチャーらしいキャッチャーですよね。キャッチャーはグラウンド全体を見渡せる立場だけに観察力や洞察力が求められる。堂上には自分のことより人のことをよく分析しようとする姿勢がみられます。いつもキョロキョロしていますからね。資質はもっていますよ。後は経験を積ませて、そこに技術が入ってくれば楽しみです。

二宮: 新外国人ではホールトンがローテーション候補に上がっています。
秋山: 僕の中では、打者を抑えるイメージがある程度、浮かばないピッチャーは1軍では厳しいと思っています。ホールトンは真っすぐでガンガンいくスタイルではないのですが、変化球をうまいこと使いながら抑えるタイプ。その点では計算できそうな投手です。

二宮: 打者ではアギーラがおもしろそうですね。去年は3Aで29本塁打をマークしたとか。
秋山: 外野を守れる選手を、とお願いして獲ったのですが、バッティングの穴が少ない。飛ばす能力はそこそこでも、うまく体を回して広角に打てる技術を持っています。

二宮: 去年は現役時代の後輩、渡辺久信監督が西武を日本一に導きました。これは大きな刺激になったのでは?
秋山: 羨ましい限りですよ(笑)。試合をやるたびに、しょっちゅうグラウンドで話をしていたのですが、勝つごとに変わったな、という印象を受けました。あれよあれよという間に、日本一になって、アジアシリーズまで行きましたからね。

二宮: 伊東前監督も就任1年目に日本一。西武の黄金時代のメンバーだけに、どうすれば勝てるかをよく知っている。
秋山: 単に知っているだけでなく、実際にやってのけたことが大きいのではないでしょうか。頭でいくら分かっていても、経験した者でなければ身につかないことはたくさんありますから。
 でも、昨年の西武は本当に変わりましたよね。オープン戦から各打者の打球の鋭さが全く違っていました。おそらく秋からの練習が実を結んだんでしょうね。半年間でここまで変われるんだとビックリしましたよ。西武ができるなら、ウチだってできないことはない。いい勉強になりました。

二宮: 去年の西武は、思い切りの良さが光りました。ソフトバンクは今年、「フリキレ!!」がスローガン。バットも全力で振り切れ、という意味ですね。
秋山: バットだけじゃなくて、ピッチャーなら腕を振り切れ。そして心のメーターを振り切れ、雑念を振り切れと、いろんな意味をこめています。試合の中で、思い切ってプレーしよう。そう選手には伝えてあります。

二宮: シーズン前の現時点で、不安と楽しみ、どっちが大きいですか?
秋山: 不安は不安ですけどね。でも、マイナスのことばかり考えていてもしょうがない。やるべきことをやって、準備をいかに整えるかに集中しています。

二宮: パ・リーグは各球団の戦力に大きな差がない。ソフトバンクにも充分チャンスがあります。
秋山: ウチにチャンスがあるなら、他の5球団にもチャンスがある。1チームが抜きん出てれば、そこを中心にローテーションを組んで戦っていく方法もありますが、今のパ・リーグはどの球団も気が抜けない。差がないから逆に大変なんですよ(笑)。

<小学館『ビッグコミックスピリッツ』4月13日号(3月30日発売)では秋山監督へのインタビューが掲載されています。そちらもぜひご覧ください!>