2日、IOC(国際オリンピック委員会)が2016年夏季五輪を招致している4都市の調査報告書を発表した。東京は財政や治安で高評価を獲得した一方、国民の支持率の低さや競技場インフラの未整備など、いくつかの課題を指摘されている。
 調査報告書の発表を受け、東京オリンピック招致委員会は3日に会見し、竹田恒和JOC(日本オリンピック委員会)会長は「大変高い評価をいただき嬉しく思っている。招致活動に弾みがつく」と語った。
 注目の開催都市は、来月2日にコペンハーゲンで開催されるIOC総会で決定する。
(写真:調査報告書を手にする竹田JOC会長、小谷美可子アスリート委員会委員長ら)
 今回の調査報告は今年2月に各都市から提出された立候補ファイルと、4月・5月に行なわれた評価委員の視察を基に作成されている。この報告書を参考に、1カ月後に行なわれるIOC総会で各国の理事たちが4都市の中から開催都市を投票する。

 2016年夏季五輪開催を目指すのは、東京とシカゴ(米国)、マドリッド(スペイン)、リオデジャネイロ(ブラジル)の4都市だ。この4つの都市に絞られた昨年6月の1次投票では、東京が最も高い評価を受け3都市をリードしていた。

 昨日発表された調査報告書の中で、東京が高い評価を得た点は、国や都が補償するおよそ4000億円の財政力や半径8km圏内で97%の競技が開催できるコンパクトな運営。そして、治安の高さなどの8つの項目だ。対して、評価が低かったのは国民・都民からの支持率の低さ、既存競技施設の改修や新設の必要性、選手村の用地確保などの項目だ。

 かねてより、国内の支持率の低さは指摘されていたが、IOCが行なった世論調査では4都市中で最低の55.5%。報告書の中で最も高いマドリッドの84.9%から大きく離されており、ダントツの低水準だった。

 低支持率について、竹田会長は「私たちが6月に実施した世論調査では80%近い支持を得ている。日本人は五輪開催時に最も長くテレビを視聴する国民というデータもある。本番が近づくことで、自然と盛り上がってくることも各国のIOC委員に伝えている」と述べ、大きな問題にならないことを強調した。

 既存競技施設の改修や選手村についての指摘についても、6月にローザンヌで行なわれたプレゼンテーションで説明済みとし「今回の指摘は我々にとって解決可能な問題だと把握している」とした。

 東京と並んで高評価を得たのはリオデジャネイロだ。1次投票ではさほど評価されていなかったが、国民世論の高い支持と政府・市からの財政保証などで他都市よりもポイントが高く、さらにリオデジャネイロには「南米初のオリンピック開催」という大義名分がある。日本はコンパクトな運営や環境に配慮した大会を目指しているが、リオデジャネイロのような、開催に向けた大きな理由付けが見当たらない。この点ではリオデジャネイロと比較すると後れをとっていることは否定できない。

 マドリッドとシカゴは財政面での基盤が脆弱として、厳しい評価になっている。さらにマドリッドは遠隔地で行なわれる選手村の不整備や、シカゴは交通機関への課題があると指摘されている。

 今回の調査報告を受け、招致委員会は1カ月後の投票に向けて「大きな問題はない」と繰り返した。しかし、IOCの報告書と招致委員会の見解に隔たりのある部分が多い。既存競技施設の改修について、報告書では「34の競技会場のうち、いくつかは改修、または新設が不可欠」とされ、報告されている以上の予算が必要としている。一方、招致委員会は「改修費用などは報告書に明記された4000億円の予算の中に組み込まれている」と主張し、双方の見解は分かれている。

 4都市の評価について、海外メディアの中にも“東京とリオデジャネイロが最有力”とする報道が多い。客観的に見ても、東京が4都市の中で高い評価を得ていることは間違いない。残された1カ月で調査報告書に記載された問題点が解決されるかどうか。ここに焦点が絞られる。

「各国のメリット、デメリットを公平に評価してもらった」と招致委員会関係者。日本の招致活動は2002年サッカーW杯で日韓の2カ国共同開催という事実上の招致失敗を経験している。今回の招致では同じ轍を踏まないようにしなければならない。招致委員会のメンバーは現在も海外で招致活動を続けており、各国理事が投票する10月2日のコペンハーゲンのIOC総会まで予断を許さない状況が続きそうだ。

(大山暁生)