NFLの2009-10年シーズンの開幕が間近に迫っている。
 近年のアメリカではNFLこそがNo.1スポーツの称号を欲しいままにしているが、その地位は今季も揺らぐ気配はない。まだMLBはシーズン中だというのに、トレーニングキャンプの段階から地元紙も多くのページを割き、街の話題もアメリカン・フットボールへと徐々に移行。祭りが始まる前のBUZZ(興奮した噂話)が全米を包み始めていると言ってよい。
 アメリカの情熱・NFLは、2009-10年シーズンにどんなドラマを生み出してくれるのか。今回は筆者が考える4つの見どころをピックアップし、掘り下げてみていきたい。
(写真:全米が熱く燃え上がる季節の開始まで、もう間もなくだ)
【マイケル・ヴィックの今後】

 違法闘犬に関わった容疑で服役していたマイケル・ヴィックは、11カ月の刑期を終えて7月20日に出所。8月13日にはフィラデルフィア・イーグルスがヴィック獲得を発表し、ここに今季最大のドラマがスタートした。
 フィラデルフィアは全米屈指と言えるほどスポーツへの関心が高く、ブランク明けのヴィックにとって重圧は強烈なはず。しかもQBにはチームの象徴と言えるドノバン・マクナブが君臨している。

 このマクナブを中心にイーグルスはすでに今季スーパーボウル進出の有力候補と評判が高い。にも関わらず、わざわざ「ムショ上がり」の選手をロースターに加える必要があったのかどうかと首をひねる識者も多かった。
 かつて爆発的な能力を誇示した選手だけに、その力を半分でも残していれば大きな戦力になるのは確か。ただ現在の実力はまったく未知数だし、それにチームのケミストリーを大きく乱さないとも限らない。

 そもそも出所直後の男と契約すること自体にも様々な意見がある。地元紙記者によると、現時点でフィリーの人々の大半は「課された務めを終えたものが、新たな仕事を得ることに反対する理由はない」と考えているのだとか。だが例えそうだとしても、フィールド内外でヴィックが万が一にも何らかのトラブルを起こせば、イーグルスが被るダメージは計り知れないだろう。
(写真:「ヴィックが来たから飼い犬を隠せ」というTシャツが売られているように、フィリーの街にも少なからず獲得反対論者は存在する)

 いずれにしても今のマイケル・ヴィックは、どちらに不利に働くかが知れない時限爆弾。フィラデルフィアは危険な諸刃の剣を手に入れたことになる。おかげでイーグルスは、今季を通じて常に最大の脚光を浴び続けることにもなるのだ。

【ファーブ、再び復帰 その他のQBにも注目】

 昨季、ニューヨーク・ジェッツでプレーした後に引退を発表した老雄ブレット・ファーブだったが、結局は開幕直前にミネソタ・バイキングスと契約。これでなんと2年連続の引退撤回となった優柔不断な元英雄QBは、最近はジョークのネタとして取りあげられることも多くなってしまった。
 ただフィールドで力を出せばすぐに世論の風向きも変わるだろうし、特にバイキングスは「QB以外に弱点なし」と言われたチーム。ファーブ加入のおかげで今季、快進撃を展開する可能性も決して低くはないだろう。

 またそのファーブに去られたジェッツは、代わりのエースQBに新人マーク・サンチェスを登用することを発表。デトロイト・ライオンズで先発しそうな「ドラフトいの一番指名」のマット・スタッフォードとともに、ルーキーがいきなりどんな司令塔振りをみせるかも楽しみである。

 さらにデンバー・ブロンコスに毒舌に見舞って移籍したジェイク・カトラー(シカゴ・ベアーズ)、オフに女性スキャンダルに巻き込まれたベン・ロスリスバーガー(ピッツバーグ・スティーラーズ)、昨季の故障から全開をアピールしたいトム・ブレイディ(ニューイングランド・ペイトリオッツ)、それぞれ2度目のスーパーボウル制覇を目指すマニング兄弟(兄ペイトンはインディアナポリス・コルツ、弟イーライはニューヨーク・ジャイアンツ)ら、QBは相変わらず人材豊富。
 最も重要なポジションなのだから当たり前といえば当たり前だが、これら注目QBたちの出来具合が今季の覇権を左右することになりそうである。

【カウボーイズ新スタジアムに問題発生?】

 リーグ1の名門チーム、カウボーイズの新スタジアムが今季よりダラスの地にオープン。総工費には1億1500万ドルが費やされた巨大な建物は、訪れた人々なら誰もが感嘆し、絶賛する見事な出来映えだという。
 すでに2011年のスーパーボウルはこのカウボーイズ・スタジアムが舞台となることが決定。それだけはなく、2010年のNBAオールスターゲーム、2014年のNCAAファイナルフォー、2009年以降のコットンボウルなどNFL以外のイベントも次々と行なわれていく予定だ。まさに米スポーツ界を代表するスタジアムとして、新たな名所となっていきそうである。
(写真:数々の豪華スタジアムもNFLの魅力の1つ(写真はフィラデルフィアのリンカーン・ファイナンシャル・フィールド))

 ただこの豪華スタジアムは、プレシーズン戦中に早くも問題が発生して別の意味で話題を呼んでしまっている。8月21日の試合中に、パントで蹴ったボールが大型スクリーン(全長55m、約27.5mの高さで天井から吊るされている)を直撃。ボールが建造物に当たった場合は無効とのルールがあるため、再び同じ地点からパントを行なうというしまらない展開となってしまった。

 NFLが定める規定の高さをクリアしていること、フィールド中央部にパントを上げる機会が極稀なことなどの理由から、リーグはこの巨大スクリーン問題をとりあえず黙認する構え。ただ、こけら落としでいきなり起こったことが、再び繰り返されない理由はない。今後の対処方法はまだ不明だが、せっかくの美しいスタジアムが、パントのやり直しばかりで有名になってしまわないことをとりあえず願いたいところである。

【優勝争いは?】

 優勝争いは相変わらず群雄割拠。現時点では昨季王者スティーラーズ、勝利の使者ブレイディが戻って来たペイトリオッツ、快足RBラデイニアン・トムリンソンが復調気配のサンディエゴ・チャージャーズら、AFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)の強豪をスーパーボウル制覇の筆頭候補と見る識者が多い。
(写真:今季も混沌とした優勝争いが展開されそうだ)

 一方でジャイアンツ、カウボーイズ、ベアーズらNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)の列強には不確定要素が多く、自信を持って推しづらい。となると、今季もAFCの優勢が続くと見るのが妥当なところなのだろうが……。

 しかし、先に書いたようにNFCにおいて最も爆発的な能力を秘めるチームが、オフにヴィックという新たな武器をゲットした。最後の1ピースを加えたフィラデルフィアのタレント集団が、シーズン中盤以降に快進撃を続ける。そしてイーグルスは、ついに悲願のスーパーボウル制覇を達成し、マクナブとヴィックが揃ってトロフィーを掲げる。そんな展開が、最も劇的で盛り上がるはず。
 そしてそのシナリオ実現は、決して夢物語ではないと考えているのは筆者だけではないはずである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト スポーツ見聞録 in NY
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