日本バスケットボール界のパイオニア田臥勇太と同じく、日本女子バスケットボール界にも本場米国に挑み続けているプレーヤーがいる。日本を代表するPG大神雄子(JOMOサンフラワーズ)だ。父親のコーチ留学先のロサンゼルスでバスケットに出合い、そのとりことなった大神。幼少時代からの夢は米国でプレーすることだった。一昨年、ついに大神はその夢を実現させた。果たして彼女は米国で何を感じ、どんなことを学んだのか。当サイト編集長・二宮清純が日本代表合宿中の彼女を直撃した。
二宮: 昨年、痛めた手首の具合はどうですか?
大神: まだ完全とまではいっていません。可動域がもう少し出ないと、ドリブルをしていても、なかなかボールが手につかないんです。私の知り合いのバスケットボール選手も同じように手首を骨折したのですが、未だに関節がかたまることもあると聞いています。しばらく時間はかかりそうですね。

二宮: これまでに骨折した経験は?
大神: いえ、一度もありませんでした。長期離脱をすることも初めてだったんです。

二宮: リハビリはどんなことをされているんですか?
大神: 一番最初に教えられたのは、広げた新聞紙を片手だけでクシャクシャッと寄せ集めて、最後に丸にできるくらいまでギュッとかためるんです。今は可動域を出すために重いボールを持って手首をひねったりしています。

二宮: バスケットを始めたきっかけは?
大神: 父が山形大学の監督をしているのですが、私が小学2年の時にUCL大学という名門にコーチ留学をしたんです。その時に、NBAやUCLの試合を見てバスケットの魅力にとりつかれちゃいましたね。1年後、日本に帰国してすぐにミニバスケットボールチームに入りました。

二宮: 高校は名門の名古屋短期大学付属高校(現・桜花学園)に入りました。
大神: はい。小学6年の時にたまたまテレビで名短の試合をやっていました。その時に最後、スリーポイントでのファウルをもらって、フリースローで名短が競り勝ったんです。それで名短の存在を知って、そこに行きたいと思うようになりました。中学3年までずっと名短に入ることを目標にしてきたので、声をかけてもらったときは本当に嬉しかったですね。

二宮: バスケットボールの技術はお父さんから教えてもらったことが多いのでしょうか?
大神: シュートは父かもしれませんが、基本的には高校に入ってから技術的なことを教わりました。中学までは単に楽しんでいただけでしたから。高校は合宿生活で、すぐ隣に体育館があったんです。練習時間も長かったですし、休みもほとんどなかった。苦しさや厳しさという面でも高校時代に鍛えられましたね。

二宮: 高校時代は3年間で7タイトルを獲得。1年生からレギュラーを張っていた大神選手にはいろいろなチームから声がかかったのでは?
大神: そうですね。現在日本代表監督の中川文一さんにも当時監督を務めていたシャンソン化粧品に誘われました。他にもいくつかオファーはありましたし、米国の大学への進学も考えていました。その中でJOMOに入団する決め手となったのが、当時憧れていた大山妙子選手と一緒にプレーしたいという気持ちでした。

二宮: 一昨年からはWNBAにも挑戦していますね。日本人として初めてNBAプレーヤーとなった田臥勇太選手の存在は励みになったのでは?
大神: 非常に励みになりましたね。それと、田臥さんのおかげでチームにもすんなりと入ることができたんです。私が入団したフェニックス・マーキュリーと田臥選手がいたフェニックス・サンズのオーナーが同じなんです。練習やトレーニングも同じ所で行なわれるので、トレーニングコーチも「勇太、勇太」と話しかけてくれました。マーキュリーの選手にも「以前、日本人の男子が来たでしょ」って。みんな、本当に親切にしてくれました。田臥さんには本当に感謝しています。
          
二宮: 実際、WNBAでプレーしたわけですが、170センチという身長は米国では小さいほうですか?
大神: 小さいですね。ただ、私よりも背の低い選手もいるんです。162センチくらいの選手がいるのにはビックリしましたね。とはいっても、お尻の盛り上がり方とかは全然違います。そういう選手にもパワーでやられることも少なくなかったです。

二宮: 1年目、WNBAでプレーして苦労したことは何でしたか?
大神: 正直、バスケットでは通用する選手は日本にもたくさんいると思うんです。難しいのは向こうの文化や言葉、生活環境に順応できるかどうかですね。向こうに行って、やっぱり日本は生活環境が整えられているなと改めて気づきました。移動にも体力が必要です。ホームとアウエー会場を飛行機で行き来するのですが、時差もありますからね。

二宮: 会話の面ではどうでしたか?
大神: バスケットボールに関しては日本でも同じような英語を使っているので、ほとんど問題はなかったですね。ただ、ロッカールームでのコミュニケーションが難しかったです。日本でも略語って流行ってますけど、向こうでも同じなんです。だからパーッと早口で言われてしまうと、ポーンって抜けちゃいますね。マーキュリーの選手たちは外国人向けにやさしい英語をゆっくりと話してくれました。本当にチームメイトには助けられましたね。

二宮: 米国と日本では技術的な差はどんなところにあるのでしょうか?
大神: 正直、技術的にはそれほど差は感じませんでした。ハンドリング、シュート力、スピードなど、逆に日本人が勝っている部分もたくさんあります。ただ、パワーに関しては、やはり米国の方が上ですね。バスケットボールはぶつかり合いのスポーツなので、パワーで負けてしまうと、せっかくのスピードも殺されちゃいますし、シュートもブレちゃいますから。

二宮: 大神選手は現在26歳。これから脂がのってくるところですね。
大神: 全くないです。日本代表にも35歳の先輩がいますし、WNBAでも38歳の選手がプレーしています。年々、選手寿命が伸びてきていることもあって、26歳はまだ若手。これからまだまだ成長できると思っています。

<2009年9月19日発売『ビッグコミックオリジナル』(小学館2009年10月5日号)に大神選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>