1日、都内で行政刷新会議の行なってきた「事業仕分け」に対するスポーツ界からのアピールが行なわれた。予算削減見直しを求め声明を発表したのは北京オリンピックレスリング女子フリースタイル55kg級金メダリスト吉田沙保里(綜合警備保障)、フェンシング男子フルーレ銀メダリスト太田雄貴(森永製菓)、アテネオリンピックアーチェリー男子銀メダリスト山本博(日体大女短大教)ら10名。それぞれがアスリートの立場から事業仕分けでの決定に対しコメントした。
(写真:「マイナー競技を切り捨てないでほしい」と訴える太田)
 先月25日の事業仕分けで縮減の決定がされたのは「民間スポーツ振興費等補助金」の32億9200万円。このうち82.3%にあたる27億1400万円がJOCに割り振られ、トップ選手強化に当てられる予定だった。予算については12月中に編成され、来年1月の通常国会で審議される予定だ。

 会見の冒頭ではスポーツ予算の削減に対する日本オリンピック委員会(JOC)からの説明があり、JOCへ振りわけられる予定の27億円が削減されれば、これまで継続的に行なってきた強化策が白紙に戻ってしまうことを強調。2012年ロンドンオリンピックや14年ソチオリンピックに向けた強化計画が実行不可能な事態に陥るとした。さらに諸外国と比較しても日本のスポーツ予算は極めて少なく、反対に増額を主張する場面もあった。北京オリンピックでの年間強化費をみるとドイツが274億円、米国が165億円、英国、中国が120億円と、JOCに割り振られる27億円とは大きく隔たりがある。

 続いてマイクをとったオリンピック出場経験者たちは、それぞれの体験から選手たちが厳しい状況下で競技を続けてきた経験を語った。今回の会見に臨んだのは全員がアマチュアというだけでなく、オリンピック、世界選手権以外はなかなかスポットの当たらない、いわゆるマイナースポーツの選手たちだ。彼らはオリンピック、世界選手権以外の海外遠征を自費で負担した経験があり、国からの補助金が削減されることで、練習環境はさらに厳しいものになると説明した。

 アーチェリーの山本は「以前はオリンピックに出場するのも自費だった。現在でもオリンピックの出場権を獲得するための遠征では、多くの競技者が自己負担を強いられている。オリンピックに出場する選手たちは金メダルだけを求めているのではない、無形なものに価値があると学んでいる。政府関係者には形のない財産への向き合い方を考えていただきたい」と語り、太田は「(競技を始めたばかりの)子供たちに自己負担で競技を続けると伝えるのは、あまりにも悲しい」と話した。
(写真:「自費で遠征するのは日本くらい」と熱弁する山本)

 事業仕分けの決定に反対する一方で、27億円の予算の使いみちを精査することや競技の魅力を国民へのアピールの場が必要なことも課題として口にしている。予算削減反対を訴えることも必要だが、割り振られた予算を有効に分配する努力もJOCには求められる。選手強化や競技普及について、全ての予算が有効的に使われていれば、予算削減の標的になることを回避できたはず。その点ではJOCや各競技団体も反省すべき点はある。

 事業仕分けには法的拘束力はなく予算が削減されるかは流動的だが、予算削減が行なわれれば、日本のアマチュアスポーツ界にとって大きな損失となることは間違いない。現場の声は政府関係者に届くのか。予算の大枠は今月中に発表される予定だ。

(大山暁生)