19日、UAE・アブダビでFIFAクラブワールドカップ決勝が行なわれる。現行の大会形式となって5回目だが、決勝は今年も欧州王者と南米王者の顔合わせとなった。圧倒的な破壊力でヨーロッパを制したバルセロナ(スペイン)が初めて世界一の称号を手にするのか。それともエストゥディアンテス(アルゼンチン)が41年ぶりに世界王者となるのか。全世界注目の1戦が2日後にキックオフされる。
 昨年まで日本で行なわれてきたFIFAワールドカップ。前身のトヨタカップから数えると28年間、真冬の日本でクラブ世界一が決定してきたのだが、09、10年大会は戦いの舞台をアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに移した。その1年目の大会に限って、世界で最もスペクタクルなサッカーを展開するクラブが出場する。言うまでもなく欧州王者のバルセロナである。

 今大会が日本で開催されていないという事実は、私達にとって悲しむべき事態といえよう。欧州最優秀選手に贈られる「バロンドール」(フランス語で『黄金のボール』の意)を獲得したリオネル・メッシをはじめ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ズラタン・イブラヒモビッチにティエリ・アンリ。スーパースターたちがピッチ上で躍動するサッカーは、今日に限らずサッカー史上で最もエキサイティングなものといえる。92年、バルセロナのキャプテンとしてトヨタカップに来日したジョゼップ・グアルディオラが作り上げたチームは圧倒的な破壊力で世界中のサッカーファンを魅了している。

 3年前にも欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制しクラブW杯に駒を進めた彼らは、決勝でインテルナシオナル(ブラジル)に0−1で敗れている。これまで勝負のかかった大一番で伝統的に脆さをみせてきたバルセロナ。しかし、今回のクラブW杯に対するこだわりは3年前とは比較にならない。08−09シーズンでバルセロナが手にしたタイトルは欧州CL、UEFAスーパーカップ、リーガ・エスパニョーラ、スペイン国王杯、スペインスーパーカップと実に5つ。その上クラブW杯まで獲得すれば考えられる全てのタイトルを手中にすることとなる。史上初の快挙を目前に是が非でも優勝カップを持ち帰りたいところだ。

 バルセロナは過去に3度、欧州を制しているが、世界一の称号を手にしたことは一度もない。永遠のライバル、レアル・マドリッドが世界一の座に3回就いていることを考えると大きく後れをとっている。

 1970年代から超攻撃サッカーを売り物にしているバルサだが、このクラブには強さとともに勝負弱いという脆さが共存していた。しかし08−09シーズンで5冠を制した彼らには少しの綻びも感じられない。今季のリーガ・エスパニョーラでは12勝3分けと負け知らずで、11月29日に行なわれたレアル・マドリッドとの“クラシコ”も1−0で制している。CLではグループリーグで苦戦したものの、最終的には1位通過を果たしており昨季の勢いそのままに順調なシーズンを送っている。

 大会前、CLでメッシが負傷し出場が危ぶまれたが、どうにか今大会に間に合わせた。北中米カリブ海王者アトランテ(メキシコ)との準決勝では途中出場ながらピッチに立っている。なおかつピッチに登場した2分後、メッシはファーストタッチで相手ゴールへシュートを流し込み決勝点をあげている。その後のプレーでもケガの影響は感じられず、決勝戦では先発起用の可能性も大きい。メッシ、イブラヒモビッチ、アンリの3トップへイニエスタ、シャビから魔法にかけられたようなパスが通る。極上のエンターテイメントサッカーを期待したい。

 史上初の6冠制覇を目指すバルサの前に立ちはだかるのは、アルゼンチンからの刺客エストゥディアンテスだ。今年で34歳となり円熟味を増したアルゼンチン代表ファン・セバスチャン・ベロンを中心としたチーム。エストゥディアンテスはアルゼンチン国内屈指の名門というわけではないが、41年前にもリベルタドーレスを制し、その年のインターコンチネンタルカップ(現クラブW杯)をも獲得している。その時の相手はジョージ・ベストやボビー・チャールトンらを擁し黄金時代を築きつつあったマンチェスターユナイテッドだ。サッカー史に残る名クラブを倒しての世界一の座だった。その時のキャプテンはベロンの父親であるファン・ラモン・ベロン。孝行息子が父に続いて世界一の称号を手に入れるか、注目が集まる。

 バルセロナと同じく今大会には準決勝から登場したエストゥディアンテスはアジア王者浦項スティーラーズ(韓国)を相手に2−1で勝利し決勝へ駒を進めた。この試合では浦項が退場者を3名出し、挙句の果てにフィールドプレーヤーがゴールキーパーを務めるという荒れた試合になったが、それだけ南米王者がアジアチャンピオンを圧倒したともいえる。

 トヨタカップ時代からスター選手を多く抱える欧州クラブが優位という見方が多かったが、実際はほぼ五分の星にある。欧州、南米王者以外でも参加する大会となってからも南米2勝、欧州2勝と差はない。おそらく世界中のサッカーファンのうち90パーセント以上がバルセロナ優位と考えているだろう。そこに南米王者の付け入る隙がある。世界一という悲願もバルサにとって大きな足かせになるかもしれない。エストゥディアンテスが41年前に続いて、世界一のカップを地元・ラプラタに持ち帰ってもなんら不思議はない。

(大山暁生)