22日、日本サッカー協会(JFA)はスペインサッカー連盟とパートナーシップ協定を締結することを発表し、都内で調印式が行なわれた。この日のために来日したアンヘル・マリア・ヴィジャル・ジョーナ会長と犬飼基昭JFA会長が調印式に出席し、包括的な協力関係を築くことを約束した。
(写真:調印書を披露する犬飼会長(右)とヴィジャル会長)
 FIFAランク1位のスペインと協定を結んだ日本サッカー協会。長期的なレベルアップを見据え両者が課題として真っ先に挙げたのは「育成年代の指導者養成」だった。犬飼会長は「(国内では)育成の指導者の大切さについて十分認識されるには至っていない」とし、本場ヨーロッパではステイタスが高く正当な評価を受けている若年層のコーチの必要性を口にした。

 一方、ヴィジャル会長は「我々は各年代でどのような育成をすべきかのノウハウと実績を持っている。それを日本に伝達できればと思っている。この協定は損得勘定で結ばれたものではなく、お互いを思うがゆえの協力体制だ」と日本サッカーとのパートナーシップについて語った。

 現在、世界最強の呼び声も高いスペインは若年層から一貫した選手育成で代表強化に成功してきた。久々のビッグタイトル獲得となったEURO2008の優勝メンバーの大半はFIFAワールドユース選手権(現・U−20ワールドカップ)やシドニーオリンピックなど国際舞台で輝きを放ってきた選手だ。彼らは各年代の世界大会で結果を残すだけでなく一貫して同じコンセプト、同じメンバーで戦ってきた。それが代表の力を飛躍的に伸ばす要因となった。

 JFAが欧州の数ある強豪からスペインと協定を結んだことについて、犬飼会長は「日本人と体格が大して変わらない、それどころか小さい体でフィジカルの強いドイツやオランダの選手と互角以上に戦えるスタイルを持つ選手を育てることに興味があった」と理由を口にしている。さらにパートナーシップを礎にスペインと太いパイプを築き人的交流が進めば、育成年代の指導者はもちろん、代表コーチや監督についてもスペインとのコネクションを維持することができる。その点でも、世界最先端の戦略を持つスペインサッカーとの協力体制は日本にとって大きなプラスとなる。

 スペインサッカー連盟のヴィジャル会長は、サッカー連盟会長職について22年目になる。FIFA副会長や審判委員長を務めるなど、サッカー界に絶大な力を持っている人物だ。会長自身はスペインでは少数派となる北部ビルバオ出身のバスク人。会長が長年尽力してきたのはスペインサッカーの強化だが、彼の地は都市国家単位の結びつきが強く、国旗の下で代表チームが団結する環境にはなかった。その状況を打破すべく、ヴィジャル会長は育成年代から選手を育て上げ代表を“戦う集団”へと変化させてきた。これまでW杯での優勝経験はないものの、今年行なわれる南アフリカW杯でも優勝候補の筆頭に挙げられている。困難な課題を克服し、世界一への階段を着実に昇ってきたヴィジャル会長をはじめとするスペイン連盟のノウハウが日本サッカーに活かされれば、確実に力強い援護となるはずだ。
(写真:「我々が日本から学べるものも必ずある」と語ったヴィジャル会長)

 早速、パートナーシップが形となって表れそうなのはスペイン代表との親善試合の開催だ。スケジュールの都合で南アフリカW杯には間に合わないものの、JFAは両国の対戦が実施される確約を得ている。このマッチメイクも協定あってこそ為せる業といえる。

 育成年代の強化についてはJFAも長期的なスパンで行なってきた。日本代表では30歳前後の選手の脂が乗っている一方で、若手選手の伸び悩みという問題を抱えている。今回の協定のメインは、若年層の指導者養成であるだけに、10年、20年先の日本サッカー界を見据えるために、欧州の強豪との協定が大きな力を発揮することを願いたい。