24年ぶりの優勝を狙うアルゼンチンが中心のグループB。今大会の主役候補リオネル・メッシ(バルセロナ)がどれだけ活躍できるのか。世界中が固唾を飲んで彼のプレーを見守ることになる。
 そのメッシ以上に主役になる可能性を持っているのがディエゴ・マラドーナ監督だ。言わずと知れたサッカー界のスーパースターであると同時に稀代の問題児である。良くも悪くも、監督がスポットライトを浴びてしまうアルゼンチン。彼の予測不能な言動でチーム力を後退させないようにしたい。

 チームの魅力はなんといっても豪華なFW陣だ。メッシを筆当にゴンサロ・イグアイン(レアル・マドリッド)、セルヒオ・アグエロ(アトレティコ・マドリッド)、ディエゴ・ミリート(インテル・ミラノ)にカルロス・テベス(マンチェスタスター・シティ)が名を連ねる。メッシとイグアインの先発が濃厚だが、ベンチに座る3人のうち誰がピッチに出ても超一流の布陣となる。当然ながら先発争いは熾烈であり、これが本大会で吉と出るか凶と出るかは始まってみなければわからない。

 最大の不安点は、やはりマラドーナだ。指揮官の采配には首をかしげる点も多い。南米予選で6敗を喫したが、マラドーナ監督就任後に4つの黒星を重ねている。1点を争うような緊迫した試合で、マラドーナが攻撃力溢れるFWの選手を大量投入しようものなら、チームはバランスを保つことは難しい。序盤から主導権を握り、早い時間で試合を決めてしまいたい。
 グループリーグで敗退することはないだろうが、アルゼンチン国民は過去に何度となくマラドーナに翻弄されてきた。86年大会では伝説を作りワールドカップをもたらしたものの、94年米国大会ではコカインの薬物反応が出て追放処分、失意のドン底へ突き落とされた。アルゼンチンは南アフリカ大会で祝福を受けるのか、それとも苦い思い出に終わるのか。メッシ以上にマラドーナが目立つ大会になれば、後者になる可能性は高くなっていく。

 アルゼンチン以外の3カ国は力が拮抗している。2番手には韓国を挙げたい。先日の日韓戦では、相手が最悪の出来だったとはいえ、小気味良いサッカーを展開していた。23人の選手は6人の欧州組がおり、中でもパク・チソン(マンチェスター・ユナイテッド)はアジアの枠を超え、世界屈指のファイターだ。もともとメンタルの強いお国柄の上、パク・チソンがチームリーダーとして他メンバーを牽引すれば、世界を相手に驚かせることは十分に可能だ。イ・チョンモン(ボルトン)、パク・チュモン(モナコ)などヨーロッパで成長する選手もいる。地元開催とはいえ、02年日韓大会でベスト4に進出した経験があり、躍進の立役者アン・ジョンファン(大連実徳)をベンチに入れるなど、士気を高める工夫もみられる。初戦のギリシャ戦で波に乗れば一気にベスト16まで駆け上がる。

 ナイジェリアはアフリカ最終予選で3勝3分けと苦しんだ末にW杯に駒を進めている。スウェーデン人のラーシュ・ラーゲルベックがどこまでチームを作り上げられるか。アフリカを代表する強豪だが、今回は小粒な印象が否めない。中盤のキーマンであるジョン・オビ・ミケル(チェルシー)が攻守に渡って活躍できるか。過去2大会で決勝トーナメントに進出しているものの、三つ巴の2位争いを制することができるか。

 EURO2004の覇者であるギリシャは、積極的な守備から少ない手数でゴールを狙う。4大会ぶり2回目のW杯だが、初出場の94年アメリカ大会では3連敗を喫しており、まずはW杯初勝利を手にしたい。04年の奇跡を再現できるか。

◎ アルゼンチン
〇 韓国
▲ ナイジェリア
  ギリシャ

(A.O)

 2008年11月に代表監督に就任したマラドーナ。南米予選をどうにか切り抜けたとはいえ、自身のサッカー哲学も理論も持たない指揮官の元でチームは迷走し続けた。マラドーナが就任して以来、アルゼンチン代表に招集された選手の数は実に100人以上。W杯に臨む23人からハビエル・サネッティ、エステバン・カンビアッソ(ともにインテル)のチャンピオンズ・リーグ制覇の立役者2人を外すなど、マラドーナ流のチーム作りは続く。だがマラドーナが率いているからこそ、本大会で何かをやってくれそうな期待感もある。W杯は彼が現役時代に「神の手」や「5人抜き」など数々の伝説を残してきた舞台なのだ。果たしてマラドーナは監督となってもW杯でその神通力を発揮することができるのか。

 また今大会のアルゼンチンをメッシ抜きに語ることはできないだろう。彼は速さ、強さ、巧さ、決定力とアタッカーに必要な全ての要素を高次元のレベルで兼ね備えている。代表では結果を残せず、アルゼンチン国内で批判が高まった時期もあった。しかしリーガ・エスパニョーラで34得点、チャンピオンズリーグで8得点をあげる大活躍で、アルゼンチン国内でもメッシに対する期待が膨らんでいる。他にも優れたアタッカーが多数控えているとはいえ、アルゼンチンの優勝はこの10番を背負った小柄なレフティの活躍なしにはあり得ない。

 W杯はこれが2度目の出場だが、ギリシャに対してはどの国も警戒心を抱いていることだろう。EURO2004でのビッグ・サプライズは記憶に新しいところである。
 彼らのスタイルは至ってシンプルだ。攻撃では恵まれた体格を活かすためロングボールやクロスを放り込む。アンゲロス・ハリステアス(ニュルンベルク)、ゲオルギオス・サマラス(セルティック)、ソティリオス・キルギアコス(リバプール)など190センチを超える長身選手たちを目がけて、ギオルゴス・カラグーニス(パナシナイコス)が高精度のボールを入れてくるセットプレーは大きな脅威となる。ディフェンスではゴール前を屈強なDFで固め、1点を守って勝つのが彼らのスタイルだ。20歳にしてメンバー入りを果たしているソティリス・ニニス(パナシナイコス)は軽快なステップワークを持ち、将来のギリシャサッカー界を担いうる注目選手。財政悪化で危機的な状況にある母国を、初の16強進出で勇気付けたい。

 ナイジェリアのポテンシャルの高さは誰もが認めるところだが、組織力という点において疑問符が付く。今年1月に開催されたアフリカネーションズカップで不調に終わり、シャイブ・アモドゥ監督を解任。ラーゲルベック監督を招聘し、チームを作り直す決断を下した。ミケル、ピーター・オデムウィンギー(ロコモティフ・モスクワ)ら能力の高い選手が揃っているだけに、短期間でどれだけ組織力を高められるかが鍵となる。

 このグループでの韓国の戦いぶりは、アジアと世界の差を図る上で一つの指標となるかもしれない。現在の韓国はオーストラリアと並んでアジアトップクラスの実力を持ち、歴代のアジアのチームの中でも最強の部類に入る。特に中盤には、豊富な運動量でチームを鼓舞するパク・チソン、広い視野を持つ若き司令塔キ・ソンヨン(セルティック)、テクニックを生かしたドリブル突破が魅力のイ・チョンヨンと好タレントを擁している。FW陣の頑張り次第では上位進出も十分ありうるが、ギリシャのように守備を固めてくる相手に対しては苦戦を強いられるのではないか。

◎ アルゼンチン
〇 ギリシャ
▲ ナイジェリア
  韓国

(S.S)