14日、南アフリカワールドカップグループリーグE第1節がブルームフォンテーンで行われ、日本(FIFAランキング45位)がカメルーン(同19位)と対戦した。GK川島永嗣(川崎F)、FW本田圭佑(CSKAモスクワ)らが先発した日本はカメルーンにボールを持たれながらもシュートチャンスは作らせない。そして迎えた前半39分、右サイドからのクロスをゴール前で落ち着いてトラップした本田がシュートを豪快に突き刺し先制点をあげる。1点リードで前半を折り返したものの、後半はほとんど攻めの形を作ることができない。それでも守備陣が奮闘し、カメルーンに同点ゴールを許さない。このまま1対0で90分間とロスタイム4分が過ぎ、日本は02年日韓大会以来となるW杯3勝目をあげ、勝ち点3を獲得した。

 ワンチャンスをモノにし2大会ぶりの美酒(ブルームフォンテーン)
日本 1−0 カメルーン
【得点】
[日] 本田圭佑(39分)

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 ブルームフォンテーンに乗り込んだ岡田武史監督率いる日本代表は、本田をワントップに据える布陣で試合に臨んだ。優れたキープ力と当たりの強さを持つ彼をトップに置くことで、攻守に渡り自分たちの時間を確保する思惑が見て取れた。

 試合が始まると、ボールを保持したのはカメルーンだった。右サイドに入ったFWサミュエル・エトー(インテル・ミラノ)を中心に攻撃を組み立てていく。ただし、カメルーンは本来中盤のキープレーヤーとなるはずのMFアレクサンドル・ソング(アーセナル)を欠いており、中盤の底には18歳と経験の少ないMFジョエル・マティプ(シャルケ)を起用した。そのため効果的に左右へボールを展開することができず、攻撃そのものは単調なものとなった。それでも日本選手との身体能力差を生かし、ボールを持ちながらチャンスをうかがう。7分には右サイドからFWピエール・アシル・ウェボ(マジョルカ)がドリブル突破をみせゴール前にクロスを送る。これはDF長友佑都(F東京)が対応しことなきを得るが、カメルーンの攻撃はサイドからスタートする場面が多かった。

 一方の日本は、本田が中盤までボールをもらいにくると左サイドMF大久保嘉人(神戸)がトップの位置に上がり、ボールを受けようとする。この2人とMF松井大輔(グルノーブル)が流動的に動き、攻撃の機会を探っていく。3人の中で多くの攻撃を仕掛けたのは松井だった。右サイドから数回、相手陣内に入りクロスを供給するシーンが見られた。なかなかゴール前の本田や大久保には合わなかったものの、日本の攻めは右サイドからスタートすることがほとんどだった。

 ただ、両者ともに攻撃に関しては不満足な出来だった。カメルーンは雑なパスを中盤で奪われることが多かった。日本も前線へボールを供給しても、元来FWではない本田の下にボールが収まることは少なく、厚い攻撃を仕掛けられない。前半37分にMFエヨング・エノ(アヤックス)の放ったミドルシュートが川島にキャッチされるまで両者ともに枠内シュートは0。この事実が攻撃に精彩を欠いたことを物語っていた。

 日本に初めてのビッグチャンスが訪れたのは39分だった。ピッチ中央からMF遠藤保仁(G大阪)が右サイドへボールを展開すると、それを受けた松井が一旦切り替えして左足でクロスを上げ、PA内に大久保と本田が侵入する。一瞬ゴール前へ入る素振りを見せた本田はファーサイドへ動きマークについていたDFステファン・エムビア(マルセイユ)の背後にポジションを取る。大久保がつぶれ役となって2人のDFをひきつけると、わずかな時間、本田がフリーとなった。そこへ松井からのクロスボールが足元に入る。本田は落ち着いてボールをトラップし、小さく左足を振りぬく。シュートは鋭い弾道を残し、カメルーンゴールへ突き刺さった。それまで決定機を迎えることなくきていた日本が、まさにワンチャンスをものにしカメルーンから先制点を奪った。欧州CL決勝トーナメントなど世界最高峰の舞台で輝きを放ってきた本田が、W杯でも普段どおりの落ち着いたプレーを見せ、待望の先制点をもたらした。

 前半はこのまま1対0で日本がリードして折り返す。カメルーンにボールを持たれながらもDF陣は無難に対処できていた。DF中澤佑二(横浜F・マリノス)とDF田中マルクス闘莉王(名古屋)は高い打点で空中戦を制し、ワントップのFWエリック・チョウポ=モティンク(ニュルンベルク)に仕事をさせなかった。06年ドイツ大会初戦のオーストラリア戦でも1点をリードしてハーフタイムを迎えた日本。残り45分をどのように乗り切るか。4年前からステップアップできているか試される後半45分となった。

 ハーフタイムが明けると、試合は一方的なカメルーンペースとなる。開始からわずか3分、右サイドでDF3人に囲まれながら強引にドリブルで突破したエトーがゴール前に柔らかいパスを出す。これをチョウポ=モティンクが右足でカーブをかけながらシュートするが枠の外に外れる。完全にフリーになっていたため、ゴールが生まれなかったことは岡田ジャパンにとってラッキーだった。さらにカメルーンはかさにかかって日本陣内へ攻め込みフリーキックのチャンスを幾度となく作り出す。しかしキックの精度はあまり高くなく、決定的な場面を作るには至らない。

 ボールを持ちながらも攻めの形がしっくりこないカメルーンは18分、マティプに替えて攻撃力の高いMFアシル・エマナ(ベティス)をピッチに送る。シュート力のあるエマナは積極的にボールをもらいにいき、遠目からでもシュートを放つ。残り15分を切ると、さらにFWモハマドゥ・イドリス(フライブルク)を投入し、前線に厚みを持たせる。彼らはボールを持つとどこからでもシュートを狙う姿勢を見せた。

 今大会で使用されているボールは、選手から不評を買うほど変化すると言われている。実際にこのボールに泣かされたGKが何人かすでに誕生している。しかし日本のゴールマウスを守る川島は冷静にカメルーンのシュートやクロスを処理し、相手に同点ゴールを許さなかった。

 一方的に押された日本に得点の可能性が感じられたのは36分。カウンターの場面でPA少し外からMF長谷部誠(ヴォルフスブルク)が強烈なミドルシュートを放つ。これはカメルーンGKスレイマヌ・ハミドゥ(カイセリスポル)が弾きゴールにならなかったものの、試合の流れを読みダメ押しを狙う長谷部の姿勢は、押されっぱなしのチームに勇気を与えた。

 また、得点のチャンスこそなかったものの、本田は前線で体を張りドリブルしながらサイドに流れ全体が押し上げる時間を作る。シュートを打つ場面が少なかった大久保も左サイドで献身的な守備を見せた。このサイドにはエトーがおり、彼に仕事をさせなかったのは大久保の守備による貢献が大きい。
 岡田監督は後半途中からFW岡崎慎司(清水)、FW矢野貴章(新潟)、MF稲本潤一(川崎F)を投入し、1点を守りきるというメッセージをピッチの選手たちに発信した。

 それでも不屈のライオンは同点ゴールを諦めない。日本中が悲鳴に包まれたのは後半40分だ。ゴール正面でボールを持ったエムビアが右足を鋭く振りぬく。シュートは真っすぐに日本ゴールを襲ったが、ボールはゴールバーと左ポストの角に直撃し、ネットを揺らすことはなかった。ほんの数センチでもボールが落ちていれば得点となっていた素晴らしいシュートだったが、日本は運も味方につけていた。

 必死の守りを見せた日本は4分間のロスタイムも守りきり、大方の予想を覆しカメルーンから勝ち点3を奪った。日本にとってW杯の勝利は02年日韓大会グループリーグ第3戦のチュニジア戦以来、通算3勝目となった。岡田監督は98年フランス大会で指揮を執って以来12年ぶりの大会で4試合目にして初めて勝ちを手に入れた。

 最も大切といわれてきた初戦で結果を残した日本は、次戦で優勝候補にも挙げられるオランダと対戦する。昨年9月の親善試合では0対3で完敗した相手にどこまで通用するのか。勝ち点で並ぶ相手との試合だけに、引き分けても大きく決勝トーナメントへの視界が開ける。今日の勝ち点3に満足せず、ベスト16入りをかけて残り2試合でチャレンジを続けてほしい。

(大山暁生)

【日本】
GK
川島永嗣
DF
中澤佑二
田中マルクス闘莉王
駒野友一
長友佑都
MF
阿部勇樹
長谷部誠
→稲本潤一(88分)
遠藤保仁
松井大輔
→岡崎慎司(67分)
大久保嘉人
→矢野貴章(79分)
FW
本田圭佑

【カメルーン】
GK
ハミドゥ
DF
ヌクル
バソング
アスー=エコト
エムビア
MF
マティプ
→エマナ(63分)
マクーン
→ジェレミ(75分)
エノー
FW
エトー
ウェボ
チョウポ=モティンク
→イドリス(75分)