おめでとう、ニッポン。カメルーン戦の勝利を日本を応援するひとりとして素直に喜びたいと思います。試合の内容は、おそらくみなさんも感じたように、まさに守り勝ち、粘り勝ちでしたね。日本は立ち上がりから終始、全員の守備に対する意識が高く、集中が切れませんでした。これが第一の勝因でしょう。

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 中村俊、内田を外したのは正解

 そして90分間、しっかり守れる布陣とメンバーを選択した岡田武史監督の采配も当たりました。まず、守備意識が低く、コンディションも決して良くない中村俊輔(横浜FM)をスタメンから外したのは正解でしょう。私は以前から中村俊と遠藤保仁(G大阪)を中盤で併用することには反対でした。彼の代わりに攻守に汗をかける大久保嘉人(神戸)、長谷部誠(ヴォルフスブルク)らを中盤に揃え、コンパクトなサッカーが展開できていました。

 中盤からのディフェンスが機能していたことで、最終ラインも安定していました。中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(名古屋)のダブルストッパーは終盤のピンチにも慌てず対処していましたね。これまで闘莉王にはセンターバックとしての働きぶりに苦言を呈したこともありますが、この試合に関しては合格点を与えてよいでしょう。

 右サイドバックの駒野友一(磐田)も目立ちはしないものの、いい動きをしていました。カメルーンの攻撃の軸だったサミュエル・エトー(インテル・ミラノ)が逆サイドだったこともありますが、相手の突破を許すことなく、中澤をよくサポートしていました。

 この右サイドバックは予選から内田篤人(鹿島)がレギュラーを貼っていたポジションです。確かに内田のサイドからの突破、攻撃力は素晴らしいものがあります。しかし、W杯の大事な初戦を戦うためには、まず求められるのは安定感です。グループリーグを突破するにあたって、避けなくてはならないのは勝ち点0(=敗戦)で終わること。最悪でも勝ち点1を稼ぐなら、重視すべきは守りです。大会前から岡田武史監督は今野泰幸(FC東京)を起用するようになりましたし、駒野を選択したことは間違っていないと思います。

 またGK川島永嗣(川崎)の頑張りも光りました。ただでさえ大会公式球「ジャブラニ」が扱いづらく、各国のGKを悩ませている中、11本のシュートを打たれながらゴールを割らせませんでした。ミドルシュートがバーを叩く幸運もあったとはいえ、ロスタイムのウェボ(マジョルカ)のシュートに対する反応の良さは、彼の好調ぶりを示しています。ほんの数週間前まで川島の立場は日本の第2GK。それがイングランド戦でのスタメン入りをきっかけに、今や守護神と呼べる存在に躍り出ました。これからの試合でも、彼が岡田ジャパンの命運を握るキーマンになるとみています。

 突貫工事だったとはいえ、今回の新布陣は勝ち点3という結果を残しました。選手たちも自信がついたはずです。グループリーグの残り2試合でも、このスタイルで臨むべきでしょう。守備は少しでも歯車が狂えば、一気に破綻します。中村俊や内田は悔しい思いをするでしょうが、個人的にはよほど攻撃しないといけない事態が起きない限り、出番はつくらないほうがいいと考えます。

 オランダ戦は前半無失点が最低条件

 カメルーン戦の課題は、やはり相手のパワープレーに対して防戦一方になったことです。岡田監督は岡崎慎司(清水)を投入して、前がかりになったカメルーンDF陣の裏を狙わせようとしました。この意図は悪くなかったでしょう。それなら、もう1枚、森本貴幸(カターニア)というカードを切ってもよかったのではないかと思います。岡崎と森本で相手陣内に切り込む時間が増えれば、日本はもう少し落ち着いて戦えたかもしれません。
 
 次戦(19日)のオランダはカメルーン以上に勝ち点奪取は容易ではないと思います。2−0と快勝したデンマーク戦でも、やはりゴール前でのスピードが速かったですね。オレンジ軍団を無失点でしのぐことは大変でしょう。ただ、日本の守りにも光は見えてきました。カメルーン戦同様、バランスのとれた守備ができれば大崩れはしないはずです。

 オランダは決勝トーナメント進出を早く決めたいでしょうから、勝ちに来ることが予想されます。ですから日本が勝ち点を稼ぐなら、まず前半を0−0で踏ん張り、後半勝負に持ち込むことが最低条件です。その上でオランダでもプレー経験のある本田圭佑(CSKAモスクワ)が前線に飛び出したり、1.5列目に下がってミドルシュートを放ち、ゆさぶりをかける。そうすればチャンスは生まれてきます。

 私はグループリーグの組み合わせが決まった際に、「日本の決勝トーナメント進出の可能性は30%」だとみていました。初戦で勝ったからといって、その確率がアップしたとは思いません。なぜなら、まだグループリーグは1試合が終わっただけだからです。日本には前の試合でできていたことが、急にできなくなる悪いクセもあります。とにかく今は余計な計算はせず、次の試合に集中することです。代表選手たちにはオランダ戦も私の予想を上回る戦いをぜひみせてほしいと期待しています。
 

大野俊三(おおの・しゅんぞう)
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。