16日、南アフリカワールドカップグループリーグH第1節がダーバンで行われ、スペイン(FIFAランキング2位)とスイス(同24位)が対戦した。圧倒的なポゼッションから試合を支配したスペインは、前半から細かいパスをつなぎペースを掴む。スイスはしっかりと守りを固め、豪華な攻撃陣のプレッシャーを耐え続ける。前半を0対0で折り返すと、先制点を奪ったのは守備に追われていたスイスだった。7分、カウンターから大きなワンツーで抜け出したFWエレン・デルディヨク(レバークーゼン)がしぶとくゴール前で粘ると、最後にはMFジェルソン・フェルナンデス(サンテティエンヌ)が詰めてゴールネットを揺らす。思わぬ形で失点したスペインは、ベンチスタートのFWフェルナンド・トーレス(リバプール)らを投入し、その後も攻め続けるも鉄壁のスイスDF陣を崩すことはできず1対0で試合終了。優勝候補の大本命と言われる無敵艦隊が、初戦で思わぬつまずきを見せた。

  W杯5試合連続完封で大金星(ダーバン)
スペイン 0−1 スイス
【得点】
[ス] ジェルソン・フェルナンデス(52分)

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 全32カ国が出揃う今大会16試合目に、真打ちであるスペインが登場した。欧州予選は10戦全勝、ここ4年間でわずか1敗していない欧州王者がどのような大会初戦を迎えるのかに注目が集まった。故障明けのF・トーレスこそ先発ではないものの、EURO08の得点王ダビド・ビジャ(バルセロナ)、司令塔のシャビ・エルナンデス(バルセロナ)、不動の守護神イケル・カシージャス(レアル・マドリッド)などお馴染みのメンバーがピッチに立った。

 一方のスイスは名将オットマール・ヒッツフェルトに率いられる守備意識の高いチーム。前回大会のドイツW杯では、グループリーグ3試合と決勝トーナメント1回戦を無失点で乗り切りながら、PK戦で敗退するという珍記録を作った国でもある。この試合では、無敵艦隊がどれだけのパフォーマンスを見せ、スイスを下してくれるのかという1点だけに世界中のサッカーファンは関心を寄せていた。

 立ち上がりから圧倒的なポゼッションで攻撃を仕掛けたのはスペインだった。シャビやMFシャビ・アロンソ(レアル・マドリッド)にボールが集まり、グラウンダーの鋭いスルーパスが前線へ送られる。サイドに入ったMFダビド・シウバ(バレンシア)とMFアンドレス・イニエスタ(バルセロナ)はポジションチェンジを繰り返し、スイスDFの穴を探していく。

 ワントップのビジャにボールを入れるスペインに対し、スイスのセンターバック、フィリップ・センデロス(エバートン)とステファン・グリシュタン(オセール)が屈強な体を武器に、簡単には自由を与えない。中央に分厚い壁を作ったスイスは攻め込まれながらも、決定的な場面をなかなか作らせない。GKディエゴ・ベナーリオも安定したキャッチを見せ、今大会で目立つGKのミスも起きない。35分にセンデロスが負傷交代するアクシデントに見舞われたものの、替わって入ったスティーブ・フォン・ベルゲン(ヘルタ・ベルリン)が高いパフォーマンスを示しDFラインが破綻をきたすことはなかった。

 それでも圧倒的な破壊力を誇るスペインは24分、フリーキックのクリアボールを繋いだイニエスタが前線に残っていたDFジェラール・ピケ(バルセロナ)にスルーパスを通す。ピケはボールを受けるとうまくDFをかわして右足でシュート。しかしベナーリオが素晴らしい飛び出しで弾き返し、スペインに得点は生まれない。さらに43分、ビジャがゴール前でキープしたボールを一旦下げると、イニエスタがミドルレンジからカーブをかけたシュートを放つ。ボールは浮きゴールバーの上を通過したものの、ここもゴールが生まれそうな場面だった。前半は70%近くボールを保持したスペインだが、最後の場面でスイスDFを攻めあぐね0対0のまま折り返す。

 後半になっても試合の流れは変わらない。前半同様シャビがD・シウバやイニエスタにボールを散らし、サイドからの攻撃を組み立てる。平均身長の高いスイス相手に単純なクロスではなく、低くて鋭いボールを入れたり、コーナーキックの場面では必ずといっていいほどショートコーナーを使うなど様々な工夫を施しスイスを攻めていく。

 しかし、先制点を奪ったのはほとんど攻撃のチャンスがなかったスイスだった。ゴールキーパーからのロングボールをヘッドで競ったデルディヨクがすぐさま体勢を立て直しPAに入っていく。一瞬対応の遅れたピケが必死にマークにつき、カシージャスも飛び出すものの、ボールは左サイドへこぼれる。そこへ詰めてきたのはG・フェルナンデスだった。放ったシュートは一旦ピケの体に当たるものの、それに反応したG・フェルナンデスが落ち着いてゴールへ押し込み1点を奪いとる。チャンスらしいチャンスがなかったスイスが、最初に訪れたビッグチャンスをものにし先制点をあげた。

 1点を失ったスペインだが、その後も猛攻は続く。12分、PA少し外からビジャがミドルシュート。15分にはシャビのスルーパスに抜け出したビジャがゴールを狙う。これらはGKの攻守に阻まれ惜しくも得点ならず。ビセンテ・デルボスケ監督は16分にF・トーレスとヘスス・ナバス(セビージャ)という攻撃的なカードを切り、さらに厚い攻撃を促す。17分、投入されたばかりのF・トーレスが右サイドから突破を試み、パスを繋いだシャビがゴール正面のビジャへはたく。ビジャが潰されるものの、こぼれ球に反応したのはイニエスタ。コースを狙いカーブをかけたシュートはGKが反応できないものだったが、わずかにゴール右に外れ得点にはならない。その後も幾度となく攻めあがるスペインだったが、鉄壁のスイスDF陣に穴を開けるには至らなかった。

 前がかりになったスペインをヒヤッとされたのは29分のスイスのカウンター。センターサークル付近でのスペインの細かいパス交換をカットすると、デルディヨクが再びワンツーで抜け出す。ゴール前まで進みピケ、DFカルレス・プジョル(バルセロナ)を切り返しながらかわしていき、最後は右足でコースを狙いシュート。カシージャスも全く逆を取れたシュートは、ポストにあたり惜しくも得点ならず。完全に守備陣を崩され、試合を決める2点目がスイスに入ると思われたが、スペインにはまだわずかな運が残っていた。

 九死に一生を得たスペインは34分にもH・ナバスが右サイドからミドルシュートを放つが、ほんのわずか枠から逸れる。途中出場のF・トーレスはコンディションが万全とはいえず重い動きに終始し、勢いのある若手H・ナバスやペドロ(バルセロナ)も、スイスが掴んだ流れを引き寄せることはできなかった。ロスタイム5分が過ぎ、主審が長い笛を吹いたところで試合終了。優勝候補のスペインが、初戦でまさかの敗戦を喫する結果となった。

 欧州王者として臨むW杯でいきなりのつまずきをみせたスペイン。これまでのW杯ではベスト8が最高と結果を残せていない。そして、今日の初戦でも格下と目されていたスイスに足元をすくわれた。敗北を積み重ねてきた過去の歴史を繰り返してしまうのか。

 ただ、初戦を見る限りチームの出来は決して悪くない。スペインが苦戦するとしたら、まさにスイスのような堅い守備を得意とするチームだ。次に戦うことになるホンジュラスにスイスと同じ戦い方はできない。決勝トーナメント進出に向けてもう1敗もできない状況になったが、考えようによっては、負けが許されるグループリーグで敗れたことはラッキーだったかもしれない。1敗したからといって、彼らの力が衰えるわけではない。グループリーグ残り2戦で必死に巻き返す欧州王者の戦いぶりに注目したい。

 一方のスイスは、ゲームプラン通りに事を運んだ。欧州CLを2度制した経験のある名将に導かれ、非常に難しいミッションを成功させた。この結果を生かすためにもチリとの戦いでは勝ち点を積み上げなければならない。W杯5試合連続完封という記録は歴代1位タイ。次節でこの記録が伸びるようならば、2大会連続の決勝トーナメント進出が見えてくる。

(大山暁生)

【スペイン】
GK
カシージャス
DF
プジョル
ピケ
カプテビラ
S・ラモス
MF
ブスケッツ
→F・トーレス(61分)
X・アロンソ
シャビ
イニエスタ
→ぺドロ(78分)
D・シウバ
→ナバス(61分)
FW
ビジャ

【スイス】
GK
ベナーリオ
DF
センデロス
→ベルゲン(35分)
グリシュタン
リヒトシュタイナー
ツィークラー
MF
フッケル
インラー
バルネッタ
→エッジマン(90+2分)
G・フェルナンデス
FW
クフォ
デルディヨク
→ヤキン(80分)