21日、南アフリカワールドカップグループリーグH第2節がポートエリザベスで行われ、チリ(FIFAランキング18位)とスイス(同24位)が対戦した。序盤から互角の戦いとなったが、前半31分、スイスに退場者が出ると一方的なチリペースとなる。前半は0対0のまま折り返すと、後半30分にマルク・ゴンザレス(CSKAモスクワ)のヘディングシュートでチリに先制点が入った。その後は数的優位の立場をいかしチリが落ち着いてゲームをコントロールし、このまま1対0で試合終了。チリが2連勝でグループ首位の座を守った。

  W杯無失点時間記録更新も退場に泣く(ポートエリザベス)
チリ 1−0 スイス
【得点】
[チ] マルク・ゴンザレス(75分)

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 第1節で勝利を手にした両国同士の対決となった。しかし、同じ勝ち点3を持つ国でも立場は大きく異なった。優勝候補であるスペインを完封勝ちし、世界にむけて衝撃を発信したスイスは、この試合は引き分けでも問題はない。最終節は格下と見られるホンジュラスとの1戦となり、まずは1つでも勝ち点を積み上げることがミッションとなった。一方のチリは、最終節がスペインとなる。第2節のうちにリードを拡げておき、3戦目に臨みたいところ。もちろん、スイスからは勝利が必要だ。

 序盤から主導権を掴んだのはチリだ。3−4−3の信奉者として知られるマルセロ・ビエルサ監督が完成させたチームは攻撃の姿勢を貫いていく。両サイドからFWアレクシス・サンチェス(ウディネーゼ)とFWジャン・ボーセジュール(アメリカ)が積極的な上がりをみせ、攻めのリズムを作っていく。

 前半10分、左サイドからMFアルトゥーロ・ビダル(レバークーゼン)がミドルシュートを狙う。これはGKディエゴ・ベナーリオ(ヴォルフスブルク)にはね返されるも、そのボールをさらにMFカルロス・カルモナ(レッジーナ)が強烈なシュート。これもベナーリオがパンチングをみせゴールにはならない。スペインを完封した勢いそのままに、今日も好守を連発した。

 対するスイスに予想外の出来事が起こったのは31分。左サイドでボールを持ったMFヴァロン・ベーラミがDFを背負いながらボールをキープする。やや手を使って相手を押したが、そのプレーでベーラミのヒジがビダルの顔に入り、ビダルが倒れこむ。主審はこれを悪質なファールとし一発退場の判定が下される。故意のファールではなく、即レッドカードは厳しいとも思われたが、スイスは早い時間から10人での戦いを余儀なくされる。オットマール・ヒッツフェルト監督は前半のうちにエースストライカーであるFWアレクサンダー・フライ(バーゼル)をベンチに下げ、4−4−1の布陣で守りを固める作戦をとった。初戦でスペインを完封しているチームだけに、数的不利の試合でも押し切る力はある。退場者が出た時点から試合は“攻めのチリ、守りのスイス”という図式となった。

 前半は無得点のまま折り返すと、チリは動きのよくないFWウンベルト・スアソ(サラゴサ)に替えホルヘ・バルディビア(アル・アイン)、ビダルに替えM・ゴンザレスを投入し攻撃の活性化を図る。攻めのスタイルは相変わらずのサイド攻撃。そこへM・ゴンザレスが入ることで、さらなる推進力が生まれた。

 3分、左サイドからのフリーキックをMFマティアス・フェルナンデス(スポルティング)がサインプレーでPA外のゴール正面へ流すと、待ち構えていたサンチェスがシュートを放つ。これがDFに当たりコースが変わってスイスゴールへ吸い込まれる。待望の先制点がチリへ入ったかと思われたが、シュートの瞬間に3人のチリ選手がゴール前で残っており、オフサイドの判定。彼らがプレーに関与しているかは際どい判断だが、主審はゴールを認めなかった。

 なおもチリの攻撃は続く。10分にはDFからボールを奪い取ったサンチェスが自ら持ち込んでGKと1対1に。至近距離からシュートを放つが、ここもベナーリオがスーパーセーブを見せ、ゴールにはならない。

 攻め続けたチリがスイスゴールをこじ開けたのは15分だった。バルディビアのスルーパスに走りこんだエステバン・パレデス(コロコロ)がGKをかわし、ゴールライン付近で粘って左足でクロスを上げる。ゴール前へ走りこんだM・ゴンザレスにボールが届くと、強烈なヘディングを地面に叩きつける。大きく跳ねたボールはクリアに入ったスイスDFの網をくぐりぬけゴールイン。15本目のシュートでチリが先制点をあげた。一方のチリはW杯連続完封試合が5でストップ。しかしながら558分無失点記録はW杯レコードとなった。559分目で手痛い失点を喫し、1点を追いかける展開となる。

 残り15分でチリがやらなければいけないことはこの1点を守りきること。無理せずボールを持ちながら時間をつかっていく。一方のスイスは攻撃に転じたいものの、やはり数的不利は彼らに重くのしかかりチャンスらしいチャンスは生まれない。

 しかし後半終了間際、スイスにこの日唯一のチャンスが訪れた。相手PA付近でボールを奪うと、左サイドへ展開。DFレト・ツィークラー(サンプドリア)がゴール前に低いボールを送るとアルベルト・ブニャクの足元に収まり、すかさずヒールパスを出す。意表を突かれたチリDFは途中出場のエレン・デルディヨク(レバークーゼン)を完全にフリーにしてしまう。しかし、右足からデルディヨクが放ったシュートはゴール左に逸れる。絶好機を逃がしたスイスにチャンスがやってくることはなく、1対0でチリが勝利した。

 チリは勝ち点を6に伸ばしグループHで単独トップに立った。前述のとおり最終節はスペインとの試合だ。ここまで最良の結果を出してきた彼ら。引き分け以上ならば文句なしでグループ首位通過となる。ただ、決勝トーナメント1回戦でぶつかることになるグループHにはブラジル、ポルトガルなど強豪が揃っている。1位通過と2位通過でどちらが有利とも言い切れない。ビエルサ監督にとって、この2連勝は狙い通りの結果だろう。スペインとの試合では、あわよくば勝ち点を取れればいい。その程度の気持ちで試合に臨むのではないか。

 スイスは惜しくも勝ち点を逃がした。スペイン戦での金星を生かすためにも、ここでは引き分け以上の結果がほしかった。それでも決勝トーナメント進出の可能性はまだ残っている。次節のホンジュラス戦では得失点差で有利に立つためにも、大量のゴールがほしい。スイスが大量得点をあげるシーンは想像しにくいものの、決勝トーナメント進出へ進出するためには1つでも多くのゴールを奪うことが必要だ。これまで堅実な守備から試合を組み立ててきた彼らがどのような戦いをみせるのか、今から楽しみだ。

(大山暁生)

【チリ】
GK
ブラボ
DF
ポンセ
メデル
ハラ
MF
カルモナ
イスラ
ビダル
→M・ゴンザレス(46分)
フェルナンデス
→パレデス(65分)
FW
サンチェス
ボーセジュール
スアソ
→バルビディア(46分)

【スイス】
GK
ベナーリオ
DF
グリシュタン
ベルゲン
リヒトシュタイナー
ツィークラー
MF
フッケル
インラー
ベーラミ
フェルナンデス
→ブニャク(77分)
FW
クフォ
→デルディヨク(68分)
フライ
→バルネッタ(42分)