22日、南アフリカワールドカップグループリーグA最終節がブルームフォンテーンで行われ、フランス(FIFAランキング9位)と南アフリカ(同83位)が対戦した。立ち上がりからペースを掴んだのはフランス。左サイドから攻撃を組み立て南アフリカ陣内に入っていく。しかし、先制点を奪ったのは南アフリカだった。20分、コーナーキックのチャンスにDFボンガニ・クマロ(スーパースポート・ユナイテッド)がヘディングを決め、ワンチャンスをモノにする。26分にフランスが退場者を出すと、流れは一気に南アフリカに傾く。37分にはFWカトレゴ・ムフェラ(マメロディ・サンダウンズ)がゴールをあげリードを2点に拡げる。大量得点で勝利すれば決勝トーナメント進出の可能性を残す南アフリカだったが、後半25分にカウンターからMFフローラン・マルダ(チェルシー)に得点を許し万事休す。試合は2対1で終了し、両国ともグループリーグ敗退が決まった。前回準優勝のフランスは屈辱のグループ最下位で大会を去った。

 フランス、いい所なく今大会1ゴールのみ(ブルームフォンテーン)
フランス 1−2 南アフリカ
【得点】
[フ] フローラン・マルダ(70分)
[南] ボンガニ・クマロ(20分)、カトレゴ・ムフェラ(37分)

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 ともに1敗1分で迎えた最終節、この2カ国にとってグループリーグでの苦戦は、本来許されるものではなかった。前回準優勝国であるフランスは欧州予選から厳しい戦いが続き、本大会出場を決めたプレーオフでもFWティエリ・アンリ(バルセロナ)のハンド騒動があった。組み合わせ抽選では開催国がシードされるグループAに入り、少しはチームが上昇するかと思われた。

 しかし、大会が始まるとドロー発進となり、続くメキシコ戦では0対2の完敗。さらに、この試合のハーフタイムにチーム内で争いが起こると、そのきっかけをつくったFWニコラ・アネルカ(チェルシー)が強制的に南アフリカから追放されてしまう。この決定を下したフランスサッカー協会に対し選手たちが抗議し、練習をボイコットする事態にまで発展した。チームを率いるレイモン・ドメネクに対する国内の猛烈な批判も続いており、チームは求心力を失っていた。

 開催国の南アフリカについても、本来の目標達成は難しい位置に置かれていた。開幕戦こそメキシコと引き分け世界中のファンから賞賛されたものの、第2戦ではウルグアイに3失点と完敗。これまで開催国が決勝トーナメントに進出できなかった例はなく、不名誉な記録の第一号になってしまうのか。さらに、勝ち星なく地元チームが大会を終えたこともない。グループリーグ突破は叶わなくても、大会初勝利を是が非でも手に入れなければならなかった。

 第2節で結果の出なかった両国は、先発を大幅に入れ替えて試合に臨んだ。フランスはFWにアンドレ=ピエール・ジニャク(トゥールーズ)を起用、さらに初戦の不振から2戦目は外されていたMFヨアン・グルキュフが先発へ戻った。対する南アフリカは点を取るためにFWバーナード・パーカー(トゥエンテ)が初先発。ムベラとともにツートップを組み、攻撃陣のてこ入れを図った。

 序盤、ペースを掴んだのはフランスだった。実力に勝る“レ・ブルー”はMFフランク・リベリ(バイエルン・ミュンヘン)が左サイドから攻撃を組み立てる。また、右サイドで起用されたMFジブリル・シセ(パナシナイコス)も積極的にゴール前へ顔を出し、攻撃に絡んでいく。3分には左サイドから抜け出したジニャクがフリーでシュート。これはGK正面を突き得点にはならない。10分にも左サイドからのクロスに飛び込んだのはシセ。ヘッドでゴールを狙うがGKにキャッチされる。ここ2戦になく、フランスはいい立ち上がりをみせた。

 しかし、先制点を奪ったのは受けに回った南アフリカだった。前半20分、右サイドで抜け出したMFスティーブン・ピーナール(エバートン)がコーナーキックを獲得すると、MFシフェウェ・チャバララ(カイザー・チーフス)が左足でファーサイドへボールを上げる。GKウーゴ・ロリス(リヨン)がパンチングを試みるも届かず、そこへ飛び込んだのはクマロだった。マークについていたMFアブ・ディアビ(アーセナル)の真上から豪快に放ったシュートはゴールネットを揺らし、南アフリカに先制点が入った。押し込まれた展開でのゴールは、チームと地元サポーターへ勇気を与えるゴールとなった。

 そして26分に試合の行方を大きく左右する出来事が起こる。南アフリカゴール前へあがったクロスにグルキュフとMFマクベス・シバヤ(ルビン・カザン)が競り合う。その際、グルキュフの左ヒジがシバヤの顔面に直撃。目の前で一連のプレーをみていた主審は、グルキュフにレッドカードを提示し一発退場となる。グルキュフのプレーは故意ではないものの、後方から勢いよく競りかけていただけに、危険なプレーと判断されるのはいたし方ないところ。フランスは早い時間帯から10人で戦うことを余儀なくされた。

 そして前半37分、数的優位に立った南アフリカに追加点が入る。左サイドからオーバーラップしたDFツェポ・マシレラ(マッカビ・ハイファ)がチャバララにボールを預け、さらにフランス陣内に入る。チャバララがクロスを上げると、一旦DFに当たったボールがマシレラへこぼれる。これをゴール前に送ると詰めたのはムベラだった。DFとぶつかりながらも粘り強くシュートを流し込み、リードを2点に拡げた。試合開始前には2位メキシコと南アフリカの得失点差は5あった。残り時間で10人のフランス相手にさらに3点をとれば追いつく計算になる。スタンドの観客もこの事実を知っているのか、一気にスタジアムのボルテージは上がった。

 しかしながら、フランスもただ黙っているわけにはいかない。大会無得点のまま南アフリカを去るのは優勝経験国のプライドが許さないはず。40分、左サイドからリベリがフリーキックをゴール前に入れると、そこへフリーで飛び込んだのはDFウィリアム・ギャラス(アーセナル)。右足を伸ばしシュートを狙うが、これはGKムーニーブ・ジョセフス(オーランド・パイレーツ)の好セーブにあい得点ならず。なかなか攻めてのないフランスもセットプレーから活路を見出していく。後半に入ると、意地を見せたいフランスはジニャクに替えてマルダを投入。少しでも流れを引き戻すべく、積極的にカードを切ってきた。

 ただし、それでも南アフリカペースで試合は続く。3点目のビッグチャンスが訪れたのは6分。チャバララのスルーパスに抜け出したムバラがダイレクトでシュートを放つ。ボールはきれいな軌道を残しながらゴールへ向かうが、惜しくも右ポストに直撃する。3点目が入っていれば決勝トーナメントへの扉が開きかかる南アフリカにとって、なんとも悔やまれるシーンとなった。続く57分にもムバラがミドルシュートを放つが、ここはロリスの好セーブが飛び出しゴールにはならない。もともと大会屈指のGKであるロリスが後半は当たりだし、簡単にはゴールを与えてもらえなかった。

 すると25分。猛攻に耐えていたフランスが一瞬のスキをつく。カウンターの場面で右サイドから上がってきたDFバカリ・サーニャ(アーセナル)がオフサイドラインギリギリにいたリベリへスルーパスを出す。それに反応したリベリがGKを誘いだしゴール前へラストパスを送る。そこへマルダが走りこみ、がら空きのゴールへシュートを流し込み1点差とする。フランスがやっとのことで今大会初ゴールを記録し意地を見せた。

 得失点差を考えると、この時点でのゴールは南アフリカにとって絶望的な失点となった。スタンドは静まりかえり、決勝トーナメント進出はこの時点でほぼなくなったと言ってもいいだろう。それでも諦めない選手たちは必死にフランスゴールへ向かうが、立ちはだかったのはロリスだった。度重なるシュートチャンスも、フランスの守護神がことごとくシュートをセーブし得点は生まれない。時間が立つにつれ、徐々にあきらめの色がピッチの選手にも広がっていった。

 スコアはこのまま動かずにタイムアップとなる。南アフリカは開催国として勝利をあげたものの、勝ち点で並んだメキシコとの得失点差で決勝トーナメント進出ならず。開催国がグループリーグで敗退するという初の不名誉な記録が残ることとなった。

 ただし、彼らよりも世界中のサッカーファンを失望させたのはフランスだ。プレーオフでのハンドから始まり、監督と選手の不協和音にスキャンダルの数々。そして大会期間中のアネルカの強制送還とピッチ内外で様々な出来事が起こりすぎた。優勝経験国が1勝もあげることなく、グループリーグ最下位という屈辱の結果となった。大会後にはローラン・ブランの代表監督就任が内定している。“レ・ブルー”が復活するのはいつになるのか。ジダンのような救世主が出現するまで、その日が来ることはなさそうだ。

(大山暁生)

【フランス】
GK
ロリス
DF
ギャラス
スキラッチ
サーニャ
クリシ
MF
ディアラ
→ゴブ(82分)
ディアビ
リベリ
シセ
→アンリ(55分)
グルキュフ
FW
ジニャク
→マルダ(46分)


【南アフリカ】
GK
ジョセフス
DF
モコエナ
クマロ
マシレラ
エンゴンカ
→ガクサ(55分)
MF
シバヤ
クボニ
→モディセ(78分)
チャバララ
ピーナール
FW
ムヘラ
パーカー
→ノムベテ(68分)