24日、南アフリカワールドカップグループリーグE最終節がルステンブルグで行われ、日本(FIFAランキング45位)がデンマーク(同36位)と対戦した。第2節までと同じ先発メンバーで臨んだ日本は、前半17分に本田圭佑(CSKAモスクワ)のフリーキックで先制する。さらには30分、遠藤保仁(G大阪)がこちらも直接フリーキックで追加点をあげた。2点リードで折り返した日本は、後半早々からパワープレーに出るデンマークに対しカウンターで好機を狙う。残り30分過ぎからは一方的なデンマークペースになり高さを前面に出した攻めを受け続けるが中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(名古屋)を中心とした守備陣が踏ん張りをみせる。36分にPKで1点を失ったものの、42分にはカウンターでゴール前に迫り最後は岡崎慎司(清水)がダメ押し点をあげ試合を決定づけた。日本はデンマークとの直接対決を3対1で制し決勝トーナメント進出を決め、29日にベスト8をかけパラグアイと対戦する。

 グループ2位でアウェー大会初の決勝T進出(ルステンブルグ)
日本 3−1 デンマーク
【得点】
[日] 本田圭佑(17分)、遠藤保仁(30分)、岡崎慎司(87分)
[デ] ヨン=ダール・トマソン(81分)

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 ここまで1勝1敗の日本は勝ち点で並ぶデンマークとの最終節に臨んだ。得失点差で日本が優位に立っていたため、この試合は引き分けでも決勝トーナメント進出が決まる。岡田武史監督はここ2戦と全く同じメンバーを先発に起用する。ワントップには本田、サイドMFに松井大輔(グルノーブル)、大久保嘉人(神戸)が配置された。

 序盤から積極的にボールを動かした日本は前半13分に2度の決定的な場面を作る。中盤から大久保がゴール前にロングフィードを出すと、そこに走りこんだのは松井だ。2人のセンターバックの間にうまく飛び出しGKの前でボールのコースを軽く変える。これはトーマス・セーレンセン(ストーク)の好セーブにあい、惜しくもゴールにはならなかった。さらにその直後、パスを繋いで松井がボールを持つとMF長谷部誠(ヴォルフスブルク)へスルーパス。長谷部はPA深くに侵入し右足で強烈なシュート。ゴールわずか右に外れたが、ここも得点の匂いを感じさせた。

 この2つのプレーに共通しているのは、中盤の選手がワントップの本田を追い越す動きでチャンスを作っている点だ。試合前から岡田監督が「0対0の引き分けは狙わない」と発言していたように、カメルーン、オランダとの戦いでは見られなかった積極的な仕掛けが序盤から見受けられた。

 対するデンマークは戦前の予想通り、サイドからの崩しで日本陣内に迫ってくる。デンマークが裏をつく場面が多く、サイドのケアがなかなかできなかった。14分には右サイドを突破され、最後はFWヨン=ダール・トマソン(フェイエノールト)のシュート。これはゴール左にわずかに外れたものの、ヒヤリとする場面になった。

 日本が先制したのは17分。右サイド30m強のフリーキックでキッカーは本田だ。左足から放たれたシュートはほぼ無回転のままデンマークゴールに向かう。GKのセーレンセンは一旦左足に置いた重心を右に置き換えシュートに対応しようと試みる。しかし、その時にはボールはすでに彼の手の届かないコースへと飛んでいた。本田の左足がゴールネットを揺らし、日本が1点目を奪った。本田は同じような位置から所属クラブでも貴重なゴールをいくつもあげている。まさに“十八番”のフリーキックをものにし今大会2得点目をあげた。

 その後はデンマークにボールを持たれるものの、再び反撃のチャンスが来たのは30分。ゴールから30m弱の位置で大久保が倒されフリーキックを獲得する。ボールの近くに立つのは本田と遠藤。強烈な先制弾をお見舞いされたセーレンセンは本田が蹴るものと読んでいたようだ。6名で壁を作り本田のシュートコースを塞ごうとしたが、遠藤の放った右足からのシュートは壁の外側を巻いてゴール右隅へと飛んでいく。ここへボールが出たらGKはひとたまりもない。絶妙なコースに遠藤がフリーキックを直接沈め、日本が2点をリードする展開となった。対するデンマークは決勝トーナメントへ3ゴールが必要となり、早くも追い込まれる格好になる。

 その後は点の欲しいデンマークが猛攻を仕掛けてくる。34分にはMFマルティン・ヨルゲンセン(オーフス)に替え、ヤコブ・ポールセン(オーフス)を早くも投入し、攻めの姿勢を前面に出してくる。日本は攻め込まれながらも落ち着いてデンマークの攻めを摘んでいく。ただし、やや下がり過ぎたDFラインは相手にクロスをあげるスペースを与えており、ここは今後修正が必要になるポイントと言えそうだ。

 ゴールを狙い続けるデンマークは後半開始直後からパワープレーに出る。高身長の選手が揃う彼らは徹底的に高いクロスをあげ、自分たちのストロングポイントで勝負しようとする。クロスがあがると必ず3人以上がゴール前に入り好機を探る。11分にはDFペル・クロドルップ(フィオレンティーナ)に替え、193センチのFWセーレン・ラーセン(デュイスブルク)をピッチに送る。FWニクラス・ベントナー(アーセナル)とともに2トップとなり、2人が競り合った周りをトマソンが狙うという形を作る。そして日本がクロスの対応に労力を使っていると、今度はミドルシュートを狙っていく。13分、PA少し外からJ・ポウルセンが放ったシュートは川島がいい反応をみせコーナーキックとなったが、段々と相手に自由にボールを持たれる機会が増えていった。

 それでもDFラインの中澤や闘莉王、そして途中からDFラインに下がったMF阿部勇樹(浦和)が高さにしっかりと対応していく。うまく攻撃ができないイラ立ちからか、中澤にマークされていたベントナーがラフプレーでイエローカードをもらう。攻め込みながら得点が入らないことで、エースは冷静さを失っていった。

 相手の猛攻に耐えてきた日本だが、35分、長谷部がパワープレーをかけてきたDFダニエル・アッガー(リバプール)をPA内で倒しPKを与える。トマソンが放ったシュートを一旦は川島がセーブするもリバウンドに落ち着いて対応したトマソンがゴールへとボールを送り1点差となる。引き分けでも勝ち抜け条件を満たす日本だったが、これ以上相手に点をやりたくない展開となった。

 攻め込まれながらもボールを奪うとカウンターに出た日本。前線の本田をはじめ、松井、大久保がボールに絡み、彼らを遠藤やDF長友佑都(F東京)が追い抜く形でシュートを放っていく。うまく時間を使うことでDF陣にも余裕を与え、あわよくばリードを拡げようと試合終盤になっても攻撃陣は推進力を失わなかった。

 そして日本に試合を決定づける3点目が入ったのは42分だった。カウンター攻撃で送られてきたボールを大久保がキープすると、左サイドをかけあがった本田へスルーパス。ゴール前まで進んだ本田はスピードのある切り返しをみせDF2人を引っ張り、ゴール前へラストパスを出す。そこにいたのは途中出場の岡崎だった。落ち着いてシュートを押し込みスコアは3対1となる。岡崎にとって久々の代表戦でのゴール。それがW杯という大舞台で決まったのだから、今後彼は乗ってくるのではないか。お膳立てをした本田は3点目について「試合前から(2人で)『オレも(ゴールを)取るから、オマエも取れよ』と話していた」と明かした。同学年コンビで決勝トーナメント進出をより確実なものにした瞬間だった。

 このままリードを守り切った日本がデンマークに競り勝ち、グループリーグ2位を確定させ決勝トーナメントへ駒を進めた。29日に行なわれる1回戦ではグループF1位通過のパラグアイと対戦する。

 岡田監督は試合後、「最初の目標だったので、正直ホッとしている。最後まで集中を切らさず選手たちはよく戦ってくれた。我々は個々では通用しないので、サッカーはチームスポーツなんだということで戦えた。(代表は)一段と成長してくれている。パラグアイは強敵になるが、次の山に向かってがんばっていきます」とベスト16入りについて語った。

 大方の予想を裏切り、2勝1敗でグループリーグを突破した岡田ジャパン。中盤の底に阿部を置き、本田のワントップで臨む布陣も板についてきたようだ。今日の試合では、これまでになかった複数選手による攻撃も垣間見えた。ダメ押しとなった3点目はまさにその形から生まれた。1節、2節では機能しきれていなかった攻撃陣も段々と歯車がかみ合ってきている。

 さらに相手がパワープレーに出た際に、阿部が最終ラインで落ち着いたプレーを見せたのも今後に向けていい材料だ。本来、パラグアイは堅守速攻型だが、今大会のFW陣は非常に強力であり、3トップで臨んでくる。デンマーク戦ではやや下がり気味だったラインをもう少し高いラインで保ち、阿部がうまく2センターバックと連係をとれれば連動性のある対応ができるはず。大会直前になって試された布陣は、ここへきて安定感を備えつつある。

 岡田ジャパンは世界に通用する2本のフリーキックと、人数をかけたカウンターでベスト16を手にした。ここからはさらなる高みへのステージだ。多くの番狂わせが起こっている南アフリカW杯。幸運の女神は、あと何度か日本に微笑みかけてくれるのか。グループリーグ突破という呪縛から解放された岡田ジャパンは、世界をさらに驚かせることができるのか。その土台は整いつつある。まずは5日後、DFラインをもう少し高く保ちながら勝負したい。その先に日本サッカー史上初のW杯ベスト8が見えてくる。

(大山暁生)

【日本】
GK
川島永嗣
DF
中澤佑二
田中マルクス闘莉王
駒野友一
長友佑都
MF
阿部勇樹
長谷部誠
遠藤保仁
→稲本潤一(90+1分)
松井大輔
→岡崎慎司(75分)
大久保嘉人
→今野泰幸(88分)
FW
本田圭佑

【デンマーク】
GK
セーレンセン
DF
アッガー
クロルドルップ
→ラーセン(56分)
S・ポウルセン
ヤコブセン
MF
C・ポウルセン
ヨルゲンセン
→J・ヤコブセン(34分)
カーレンベルク
→エリクセン(63分)
ロンメダール
FW
トマソン
ベントナー