28日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦がダーバンで行われ、オランダ(FIFAランキング4位)とスロバキア(同34位)が対戦した。3連勝でグループリーグを突破したオランダが前半18分、FWアリエン・ロッベン(バイエルン・ミュンヘン)のシュートで先制する。その後は互いに決定機を迎えるものの決めきれずスコアはなかなか動かない。それでもオランダは後半39分にMFヴェズレイ・スナイデル(インテル・ミラノ)が試合を決める得点をあげダメ押しに成功する。試合終了間際にスロバキアがPKで1点を返したものの2対1で試合終了。実力で勝るオランダがスロバキアを下して3大会ぶりのベスト8入りを決めた。

 シュートの精度が勝敗を分ける(ダーバン)
オランダ 2−1 スロバキア
【得点】
[オ] アリエン・ロッベン(18分)、ヴェズレイ・スナイデル(84分)
[ス] ロベルト・ビテク(90+4分)

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 日本と同グループに入ったオランダはグループリーグを3連勝で突破している。大会前に負傷したロッベンをベンチに温存しながら、有り余るタレントを保持し決勝トーナメントへ駒を進めた。今日の試合ではロッベンが今大会初先発し右サイドに入った。今後、厳しい対戦が予想されるだけにこの試合から徐々にギアを上げていきたいという狙いが見えた。

 対するスロバキアは中盤の要だったスデノ・シュトルバ(クサンチ)が出場停止。守りの時間が長くなることが予想されたため、司令塔のMFマレク・ハムシュク(ナポリ)がこれまでよりもやや下がり目のポジションに入り、MFウラジミール・ヴァイス(ボルトン)がトップ下に構える布陣で試合に臨んだ。

 立ち上がりから自分たちのサッカーを展開したのはスロバキアだった。前線からDFラインまでの距離をコンパクトにし、相手に自由なスペースを与えない。ハムシクがやや下がったことでボール自体はスムースに動いた。しかし、肝心のゴール前では迫力が足りず、オランダDFの裏を突く場面を作ることはできなかった。

 すると、徐々にオランダがボールを持ち始め攻撃に出る。8分には左サイドからFWディルク・カイト(リバプール)がクロスをあげるとゴール前のFWロビン・ファン・ペルシー(アーセナル)がヘディングであわせる。これは枠をとらえられなかったものの段々とオランダが攻めの形を作る。

 先制点が生まれたのは18分だった。ゴール前まで攻め込まれていたオランダは自陣でボールを奪うと、スナイデルが前線へ一気にロングフィードを送る。右サイドへ出たボールに真っ先に追いついたのはロッベンだ。スロバキアDFも3人が素早い戻りをみせ陣形を整える。それでもPA近くまで侵入したロッベンがサイドから鋭いカットインをみせ左足でシュート。DF2人がマークについていたものの、ロッベンにとってそれはお構いなしだった。シュートはゴール右隅へと吸い込まれ、オランダが1点のリードを奪った。左サイドからのカットインは今季の欧州CLやブンデスリーガで何度も披露してきたロッベンの得意な得点パターンだ。いつも通りの形でロッベンが今大会初得点をマークした。

 前半のオランダは得点シーン以外、あまりゴールの雰囲気を感じられなかった。前線の選手が連動しながらポジションを変えることも少なく、華麗な攻撃サッカーを身上とする国にしてはやや不満の残る内容だった。

 一方のスロバキアも決定的なシーンは皆無だった。グループリーグで3得点をあげているロベルト・ビテク(アンカラギュジュ)のワントップはあまり機能せず、ビテクが放ったこの試合初めてのシュートは41分。それも枠をとらえることはできなかった。前半のシュート数はオランダ7、スロバキア5と互角の数字に見えるが、枠内シュートはオランダ5本に対しスロバキアは0。シュートの精度がそのままスコアに表れた格好だ。

 後半に入ると互いにビッグチャンスを作る。オランダに好機が訪れたのは5分。右サイドで再びボールを持ったロッベンが、得点シーンと同じような角度からカットインしシュート。これはGKヤン・ムハ(レギア・ワルシャワ)がかろうじてかき出しコーナーキックへと逃れる。このプレーで得たコーナーのチャンスでボールを繋いだオランダは、PA内左に開いたロッベンがゴール前へラストパスを出す。そこへ体をいれたのはDFヨリス・マタイセン(ハンブルク)。粘り強くシュートを放ったが、ここもムハの好セーブにあい得点ならず。グループリーグでも再三ビッグセーブを披露しチームを救った守護神がオランダに追加点を与えない。

 後半に入ってシュートチャンスのなかったスロバキアも22分に決定機を連続して迎える。縦パスに反応したMFミロスラフ・ストフ(トゥベンテ)がPA内に侵入すると右足で強烈なシュート。これはオランダの守護神マールテン・ステケルンブルク(アヤックス)が素晴らしい対応でコーナーキックにする。ショートコーナーで攻撃を組み立てたスロバキアはゴール正面からのスルーパスを受けたビテクがこの試合で初めてDFの裏をとりGKと1対1に。右足で放ったシュートは枠をとらえたものの、ここもステケルンブルクがスーパーセーブをみせ同点弾とはならない。

 お互いに好機を逸すると試合はやや膠着した状態になる。特にオランダはスロバキア陣内でボールを回しながらゴールへ近づくことは少なく、縦パスを前線に放り込み個人で状況を打開しようとするシーンが目立った。足に不安を抱えるロッベンは後半25分でピッチを退き、アクセントのつけられる選手がいなくなったことでさらに単調な攻めに終始した。

 それでも追加点を奪ってしまうのがオランダの強さなのかもしれない。39分、センターライン付近でスロバキアDFマルティン・シュテルクル(リバプール)が相手を倒しファウルを犯す。この判定に異を唱えたシュテルクルが主審に抗議したスキをみて、DFジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト(フェイエノールト)が早いリスタートから左サイドへパスを出す。PA内でボールを受けたカイトはヘッドでボールをコントロールすると同時に、飛び出してきたGKを上手にかわす。すかさず内をみながら丁寧なラストパスをゴール前へ。そこへ走りこんだスナイデルがガラ空きのゴールへ難なくボールを送り込み、オランダにダメ押し点が入った。一瞬のスキを見逃さない抜け目ない戦いぶりはさすがオランダと言ったところか。

 粘るスロバキアも攻撃のカードを切り、一矢報いるため反撃に出る。すると後半ロスタイムにマルティン・ヤクブコ(サトゥルン)がPA内でステケルンブルクに倒されPKを獲得。これをビテクが落ち着いて決め1点差とする。ビテクはこのゴールで大会4得点となり、アルゼンチンのゴンサロ・イグアインと並んで得点ランクトップに立った。

 しかし、PKが入ったところで主審はタイムアップのホイッスルを鳴らし、オランダが2対1でスロバキアを退け準々決勝進出を果たした。オランダのベスト8入りは4位となった98年フランス大会以来3大会ぶり。継続中のAマッチ無敗記録を23に伸ばした。

 ここまで4戦全勝のオランダだが、4試合の戦いぶりを見る限りでは万全の仕上がりとはいえない。攻撃陣は個人技やセットプレーで得点を上げたものの、連動性はあまりなく魅力的なサッカーをしているとは言いがたい。さらに守備でもオフサイドを取り損ねる場面が今日の試合でも2回あり決定的なチャンスを与えている。GKのビッグセーブで難を逃れているものの、強豪国相手では確実に失点するケースだろう。ここまでまだ実力国とは当たっていない。次はおそらくブラジルとの対戦だ。一気に相手の力が上がる。このままでは世界ランク1位には敵わない。今大会初ゴールをあげたロッベンとワントップのファン・ペルシーがもっとコンディションを上げてこなければベスト4へ進出することは難しそうだ。次戦までは4日間ある。この時間をうまく使って、チーム全体の調子をもう一段アップさせたい。

(大山暁生)

【オランダ】
GK
ステケルンブルク
DF
ハイティンガ
マタイセン
ファン・デルビール
ファン・ブロンクホルスト
MF
ファン・ボメル
デヨンク
スナイデル
→アフェライ(90+2分)
FW
カイト
ロッベン
→エリア(71分)
ファン・ペルシー
→フンテラール(80分)

【スロバキア】
GK
ムハ
DF
シュクルテル
ドゥリツァ
ペカリク
ザバフニク
→ヤクブコ(88分)
MF
クツカ
ハムシク
→サパラ(87分)
ストフ
ヴァイス
イェンドリシェク
→コプネク(71分)
FW
ビテク